Piece7



「うーん。ちょっと不思議だなって思って。運動能力を封じたり、自動記憶の部分を封じるのまではわかるんですよ。サムナさんの戦闘能力を総合的に下げる意味合いで想像がつきますし。でも、どうして言語能力まで封じちゃったんでしょうかね?」
「言葉による情報の収集能力を下げるためだろ。それだって戦闘能力に繋がる」
「じゃあ、もう一個いいですか? ギレイオさんの話だと、機構の人は、重討伐指定を取り下げる代わりに、サムナさんの能力の減退を求めたんですよね?」
「それが?」
「それってギレイオさんに得はありますか?」
「ねえよ」
 ギレイオは何でもないような顔で、さらりと答えた。
「それは俺も何度も考えたさ。重討伐指定なんかになれば、どの街も長閑に歩けやしない。その点だけを抜き出して言えば、命と交換しろって言われないだけマシだ。でも単純な足し算引き算で考えると、どう見てもこっちの方が失った物の割合がデカすぎる」
「……よく納得しましたね、それで。ギレイオさんが」
「ガキだったしなあ。目え血走った連中に追い掛け回されるってのに、慣れてない時だから、まーこれで安眠出来るぐらいにしか思わなかったんだよ」
 では今はそんな状況に慣れているのか、と思うと、ヤンケは兄弟子が一体、外で何をしでかしているのか聞くのが恐ろしくなってやめた。
 ギレイオは呆れたような顔で見つめるヤンケを見下ろす。
「重討伐指定はサムナの能力を減退させるための布石だった、って言いたいのか?」
「それもあります。でも、私が思うのは、その二つって全く別のところから来た意志だったんじゃないでしょうかね」
「……ていうと?」
「極端に言えば、殺すか生かすかって感じですよね、その二つの特徴は。その点でもう、意志の違いははっきりしていると思うんですけど。だから、後者の生かす方……サムナさんの能力の減退は、サムナさんを生かすためにそうしたんじゃないのかなって」
 ギレイオはモニターに示された、サムナのデータを見つめる。青白い光を垂れ流す画面には、無機質な箱の形で表されたデータ群が物言わぬ表情でギレイオを見返してきた。何も知らず、何も知ろうとしない無知の徒を待つかのような箱には、導くという優しさもない。自ら求め、自らで得ようとした者にだけ、この表情は変わって見えるのだろう。
「運動に記憶に言語、どれも人並み外れていたら『ただの人』としては生きられないでしょうし、まあ、衆目は避けられないですよね」
 サムナには、明らかに「人を作ろう」という意志がある、とゴルが何かの拍子に呟いていたことをギレイオは思い出した。
「……生かすにしても、ただ生かすだけじゃない。人として生きろ、ってことか」
 ヤンケは頷く。

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