Piece7



「……大体」
 ぼそりと呟いたギレイオの声音に怒気がこもっていることに気付き、ヤンケは思わず顔を上げた。
「今、サムナを連れ歩いてメンテまでしてやってるのは俺だってのに、元の持ち主がデカい面して今さら来るなんてのが道理に合わねえんだよ。それで下手に出りゃあこっちだって溜飲の下げようもあるのに、なんだあの偉そうな態度は」
 ヤンケは上げた顔を元に戻す。
 修羅のごとき、とはこういうことなのだろうと、ヤンケは視線をモニターに集中させた。
「そのうえ、こっちの了解も得ずに勝手なことばかりしやがって、揚句の果てには馬鹿三人寄越して戦争まがいのことまでさせるって、どういう神経してんだ、あの馬鹿。段々腹立ってきたなあ……」
「……」
「……」
「……うちの物、壊さないでくださいよ」
「物に八つ当たりするほど金持ちでもねえよ」
 そう言ってギレイオはヤンケを小突く。言葉にしたことで、腹の底で渦巻くだけだった怒りが一応の落ち着きを見せたようだった。だが、ギレイオを怒らせている原因が消えたわけではない。
 問題は宙ぶらりんのまま、ギレイオの目の前で解決の日を待っている。
 その中にはきっと、ギレイオ自身の過去のこともあるのだろうと、ヤンケはそっと考えた。
 ギレイオは小さく嘆息したのち、声の調子を元に戻して言う。
「とりあえずわかったのは数えるほどか。サムナの制御を解くには正規の方法しかない、その手順を踏まなければ自爆する、正体不明のブラックボックスがある、もちろんこれも自爆対象」
「……どれもオチが自爆ですね」
「程度のわるい喜劇じゃねえか……」
「ギレイオさんの主目的はやっぱり、サムナさんの戦闘能力の復帰ですか?」
「明らかな力の差が出来てる。バージョンが違うなら仕方のないことだが、仕方ないで片づけられるほど平和な相手でもねえしなあ」
「誰か強い人を雇うとか」
「得体の知れない奴を雇うより、サムナに投資して強くした方が安上がり」
「身の安全よりお金ですか……」
「じじいにせびるお前が言うか」
「私のは正当な報酬の請求です」
「ああそう。大体、何でそんなことをいまさら聞くんだよ」
 ヤンケは操作卓に手を置いたまま、腕を伸ばすようにして体を操作卓から離した。

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