Piece7



 いつもなら弾丸のごとく飛んでくる反論がないのを見て、ギレイオは小さく息をついて、ヤンケの頭を小突いた。
「お前はお前の仕事をしろ。卑屈になるのはもうちょい後だ」
 ヤンケは口を尖らせて答えた。
「……卑屈になんかなってません。私は自分を見下したりはしませんよ」
「その意気でとっとと見せろ。お前は俺とは違うんだから」
 俺とは違う、という言葉に微かな痛みを覚えつつ、ヤンケは先ほどの階層構造の画面をモニターに出した。
「これです」
 これ、と指差したのは、階層構造になっているデータ群とは切り離された形で表示されている、一つの黒い箱だった。他のとは明らかに違い、データの名称も書かれていない。
「……ブラックボックス?」
 見たままの印象を口に出して、ギレイオは気まずい気分に陥った。
「……ここまでお約束だと……なんかこう、妙に呆れるな……」
「あまりにもそのまんまなんで、どうかなと思ったんですけどねえ……」
「じゃあこれが中枢みたいなものなのか?」
「そういうわけじゃないみたいなんです。どうも完全なスタンドアローンのようで、どことも接続されていないんですよね」
 ギレイオは身を乗り出す。
「それじゃあ、何のための箱だよ」
「だから、妙なのって言ったじゃないですか。外部からのアクセスも、他のデータ群とのリンクも完全に遮断しています。ただ勿論……」
「こじ開けようとすりゃ、自爆か」
「その通りです。それだけがリンクしています」
「馬鹿の一つ覚えみたいに自爆、自爆って……そこまでして壊したいかね」
「私はわからないでもないですけど」
 ヤンケは操作卓から体を離し、椅子の背もたれに寄りかかった。
「自分の知識の粋を集めたものを、見ず知らずの他人に利用されるなんて嫌ですし。その使い方が自分の意にそぐわなければ、やっぱり嫌なもんですよ。そうされるくらいなら、壊した方がマシって感じじゃないですか?」
「それで自爆ってか? 俺には理解出来ねえな。だったらそんなもんに自分の持てる物を結集させないで、安全な所にバックアップを作っとくよ。自爆してもいいなんて、結局その程度の代物だ」
 その程度と自分で口にして、ギレイオは口の中に苦いものが広がるのを感じた。
 相棒を、そのように扱う者がいるということが、こんなにも心をささくれ立たせる。しかもギレイオの与り知らない所で勝手に、という部分が一番にギレイオをいらつかせた。
──そうだ、何もかも与り知らない所で。
 ギレイオは段々と、体が熱くなってくるのを感じた。

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