Piece7



 そういう風潮に自分を変えた過去も、そんな過去を作りだして、今もなお逃げ続けている自分も、ギレイオは吐き気がするほど嫌で嫌で仕方がなかった。
──仕方がないのに、向き合う覚悟が持てない。
 だから、今出来る範囲でサムナの支援をすることが振り返る一歩になるかもしれないと、ギレイオは微かに自分へも期待していた。
 そんなギレイオを見上げ、ヤンケは小さく息を吐く。
 ヤンケは先日の出来事があってから、ギレイオに対しての棘を数本、引っ込めることにした。とは言え、口喧嘩は相変わらずの熱戦だが、そこに仕込まれる毒が薄まっていることを、ヤンケは何となしに気付き始めていた。とりあえず、ヤンケを助けようとしたことは紛れもない事実である。その事実に対してあぐらはかけないし、それをギレイオが行ったということが、ヤンケにとっては何故か、嬉しい発見の一つに数えられたのである。
「そう言われてこれで五回目ですよ、全部調べ直したの」
 ヤンケは指を動かし、階層構造で示されたサムナのデータを示した。
「ギレイオさんが言う通り、言語機能と自動記憶の部分は確かに制御されています。でも、それをしたところでやっと人並みかちょっと良いくらいで、運動能力についても同じことが言えるんですよ」
 戦闘能力の話でも、とヤンケは続けた。
「私は門外漢ですけど、喧嘩において記憶と運動能力が物を言うだろうなっていうのは感覚でわかります。あとは勘とかセンスとか、戦い方の形ってやつですか? そういうのを総合して高いことが、強いことだと思いますけど」
「……お前に戦い方を説明されると何か気持ち悪いなー……」
 腕を組んでうすら寒そうに言うギレイオを、ヤンケは睨みつけた。
「だから門外漢だって先に言ったじゃないですか。話はちゃんと聞いてくださいよ。……それでですね、三つの機能を封じられたことで、総合的にサムナさんの戦闘能力が落ちているんだと思います。はっきりと戦闘用とわかるデータは、戦闘の形を引用するためのデータの保管庫だけで、とりあえずそこもロックされていますけど」
「それなら、今まではどうして戦えたんだ」
「多分、ギレイオさんと一緒にいることで、戦い方を覚えていったんじゃないんですか? 封じられているといっても一部ですから、記憶して引用することが出来ないわけじゃないですし、戦闘形態の保管庫だって、あれば優位になるぐらいのもので。基礎になる身体能力は高いですから、それなりには強いって感じなんだと思いますよ」
「……じゃあ、封じられているところを解放したら、それなりどころじゃなくなるってことか?」
 ヤンケはギレイオを見返した。
「……まあ、そういうことになりますね、それなら」
 でも、とヤンケは苦笑して続ける。
「サムナさんがやたらめったら強いっていうのは、想像しにくいです」
「俺もそうだけどさ。それでも、その鍵かかった所を開けねえとなあ……」

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