Piece6



「無理矢理、ネットから切断したんだ。それもどこをほっつき歩いたんだか知らねえが、いつもとは違う場所から戻ってきたみたいだしな。頭も体もしばらく使い物にならねえよ」
「……」
 ギレイオは小さく笑う。
「そんだけしかめっ面が出来りゃ大丈夫だな。しこたま引っ叩いたんだが、まあ寝てる間に腫れも引くだろ」
「……さいていです……」
「用心してりゃ、こうはならなかった。甘く見たお前が悪い」
 ヤンケは口をつぐむ。気分が悪かったのも手伝ったが、一番はギレイオの言うことがもっともだったからである。返す言葉がない、というのは正にこのことだった。
 悔しさを言葉にすることも出来ず、唇を噛んでいると、ヤンケは視界の端でモニターが目まぐるしく動いていることに気付いた。未だ重い頭を僅かに持ち上げ、モニターを見た途端、ヤンケは目を見開いた。
 沈黙しているものだと思っていたモニターには次から次へとデータが送られ、それを必死に処理する経過報告が示されていた。凄まじいスピードで羅列されていくデータを目で追うことは出来ず、重い頭を背もたれに落としたヤンケだが、それでも、と目だけを動かしてモニターの状況を観察しようとするのを、ギレイオが呆れたような声で遮った。
「お前も馬鹿だな。自分の体の面倒も見れねえやつが、機械の面倒見ようとするなよ」
 ヤンケはギレイオを見る。
「これ、なに」
「お前が覚醒する少し前からずっとこんなんだよ。見たところ機構のデータっぽいけど、暗号で送られてるみたいでね。何がなんだか」
「誰が……」
 ギレイオは頬杖をついていた腕を下ろした。
「お前じゃないのか?」
「……違う。……出来なかった」
 正確に言えば、出来たと思ったのに、出来ていなかった。
 掴んだはずの日記は、ヤンケの手元には残されていなかったのだ。
 日記、と思い返して、その言葉と最後に見たネウンの姿が重なった。
──あの日記には、ちゃんとした読み方が必要だ。そして読むのなら、必ず裏口を抜けて、わたしとの約束を果たせ。
 ヤンケは苦笑した。挑戦しろと言っておきながら、ヒントをくれるとは思わない。それだけの自信があるのかもしれないが、今は好意的に取っておこう。体も頭もとても疲れていた。
「……寝るので、出てってもらえますか」
 絞り出すような声でそう告げられると、ギレイオは特に何かを言うでもなく、「はいよ」と素直に退室していった。あの兄弟子にも人を気遣うことはあるらしい。
──ああ、そうか。
 ネウンの笑い方が誰かに似ていることを、ヤンケはぼんやりする頭で思い出した。
 彼に似ているのだ。
 ギレイオが連れて来た、彼と。



Piece6 終

- 113 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -