Piece6



「その挑戦、忘れないでくださいよ! そして私に論戦で負けても泣き言は言わないこと!」
 どこか気持ちが晴れる思いでそう宣言した時、けたたましいベルの音が鳴り響いた。
 空気を震わせるベルの音はどこかから鳴り響いているものではなく、世界そのものが自らを震わせて、その音を響かせているようだった。あまりに凄まじい音にヤンケは思わず耳を塞ぎ、その音の出処に思い至って視線を巡らせる。
「……緊急解除」
 ヤンケ自身、あるいは機械に何らかの異常があった時、それぞれの保全のために、強制的にネットから脱するための装置をヤンケはマッドに備えていた。しかし、自分がそんな下手をやらかすはずがないとして、ヤンケはそれを外部からの操作のみ受け付ける代物にしたのである。その結果がこの始末ではあるが、自らで体験する緊急解除は随分とやかましいものだった。
 ベルの音と共に外の風景が段々と輪郭を失っていく。崩壊するという形での解除ではないことは、一つの安心材料だった。これも自分の頭脳の賜物、と満足して風景を眺めていると、その腕を強引に引っ張る力によってヤンケは現実に戻された。
「急げ。裏口が開いた状態で緊急解除されると、意識がどこへ飛ばされるかわからない」
「へ!?」
 ネウンはヤンケを引っ張り、裏口の扉を開けると、ぐっと腕を掴んで扉の向こうへ押し出した。
 たたらを踏んで飛び出した扉の向こうは暗く、顔をなでる風は冷たい。扉の先からは地面がなく、ヤンケは落ちていく感覚を覚えながら体をひねってネウンの顔を見ようとしたが、その顔は逆光になっていてよくわからなかった。
 ただ、ネウンの口が動き、何かを伝えようとしているのだけがわかったが、ネウンの声はあのベルの音に遮られて上手く聞き取れず、ひゅっと頭が吸い込まれるような感覚と共に、ヤンケは意識を失った。


「──起きろ、この間抜け!!」
 ぱんっ、という乾いた音が鳴り響き、ヤンケは目を開く。かすんだ視界はコードだらけの天井を捉え、段々と焦点が合ってくると、それが見覚えのある自室の天井だということがわかった。何度か瞬きを繰り返しながら意識を研ぎ澄まし、その作業を繰り返す内に、段々と頬が痛くなっていくのを感じる。手を動かして確かめようとするが、重くて動かない。それでも無理矢理に動かそうとすると、頭に強烈な痛みを感じて手を下ろした。
「やめとけ」
 聞き覚えのある声が耳に届き、一瞬、ヤンケは心から安心した。
 目だけを動かすと、ゴミと化していた手近なモニターの上に腰かけ、ギレイオが頬杖をついている。

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