Piece6



 そして何ページ目かに指をかけた時、ヤンケはふと、これは誰かの思考とデータのごった煮だと思った。瞬間、ヤンケは得体の知れぬ気味悪さに捕らわれ、弾かれたように日記を落とした。すると、それを合図にしたかのように小屋が軋みだし、床が波打つ。ないと思い込んでいた警備システムがようやく目を覚ましたのか、侵入者を排除すべく、小屋が大きくうねりだした。
 ヤンケは狭まっていく出入口と日記を見比べたが、手ぶらでは帰らないというハッカー根性が顔を覗かせ、素早く駆け寄って日記を拾い上げた。そしてその感触を腕の中で確かめながら、こけつまろびつ小屋の中から走って逃げた──。
 そこまで思い返して、現状に至るまでの道筋を振り返ってみても、間違えるような道筋はどこにもない。しかも、とヤンケは自分の両手を見る。あれだけしっかり握りしめたにも関わらず、日記の姿は忽然と消え失せていた。
「……ホラーってやつかなあ」
 ぶるりと身震いをする。だが、どうやらデータの欠片程度は手に入れられたらしく、その感触は手に残っていた。ということは、あれはホラーなどといった荒唐無稽な話ではなく、しっかりとした現実ということになる。
──それはそれで厄介なんだけど。
 あれが現実ならば、ヤンケの現状も現実に他ならない。何かの異常による幻覚であれば、まだ対処の仕様もあるというものだ。
 そこまで考えて、幻覚であれば、などという弱音は決してギレイオには聞かれたくないと思った。
「絶対に馬鹿にするに決まってる。詰めが甘いとか、三流とか……」
 言葉の限りを尽くして馬鹿にする兄弟子の姿が思い浮かび、弱気になりかけたヤンケの心を奮い立たせた。あの忌々しい兄弟子に付け入る隙を与えてはならないのだ。
 とは言え、途方に暮れているのも事実である。
 腕組みをし、家を振り返った。
「迷子になったってことは、自分からもう一度接続し直すことは出来ないってことなんだよね。てことは強制終了も出来ないし、これがウイルスの所為だとしてもワクチンを注入することも出来ないんだ……」
 言えば言うほど、現実が重みを持って迫ってくる。
「誰かが外から接触してくれない限り、八方塞がりってことだよね。これは、まずいなあ……」
 誰かなど、期待出来るような場所にはいない。
 でも、と顎に手を当てて、自分が逃げてきた方、つまり例の小屋のあった方向を見やる。
「何かがスイッチになったなら、もう一度そのスイッチを押してやれば変わるかな。あー、うーん、でも一度押したスイッチの所為でこちらの回路そのものが書き換えられちゃってたら、それこそ墓穴掘りか」
 ヤンケは腰に手を当て、嘆息した。

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