Piece6



 白っぽい壁に白っぽい床が屋内を構成するもので、中はそれだけだった。暗闇が巣食うばかりのそこには、ヤンケが期待したような物は何もありはしない。
「……駄目か」
 小さく息をつき、木戸に手をかけたまま、その建物を見上げる。
 白っぽい壁の上には青い屋根をいただき、その屋根からは煙突が伸びている。なのに、中には煙突から続くであろう炉もなければ、その痕跡すらない。更に離れて観察すれば、外観には窓があり、しっかりとガラスの向こうに屋内の様子が見て取れるにも関わらず、先刻、覗いた内部には窓はおろか光すら届いていなかった。
 矛盾に満ちた建物は民家の様相を呈している。
 想像力は間違っていないのに、とヤンケは腕組みをして辺りを見回した。
 ヤンケの目線と同じ位置に雲が流れ、目に見える範囲の全てが青い空だった。それもそのはず、ここは空中に浮かぶ小さな島の上だった。
 島と言っても、背後の怪しい家一軒だけで島の半分の面積を占めてしまうほどに小さな島で、辺りを見回せば同じような要領で浮かぶ島がいくつも点在している。島の規模に大小の差はあれど、どの島にも必ず家が一軒あり、島の規模によって家の規模も違っていた。
 隣に浮かぶ島は豪邸の立つ大きな島だが、そこもヤンケは既に調査済みだった。中はここと同じく、がらんどうである。
「おっかしいなあ」
 ヤンケは頭をかいた。
 本来、家の中には何かがあって当たり前のはずであった。もしなかったとしても、ヤンケにその違いがわからないということはあり得ない。わざわざ扉を開けて確認する必要などなかった。
 何故なら、ここはヤンケの意識が作り出したネットの仮想空間だからである。
 点在する島々はネット上に浮遊するいくつものデータを示し、その家に入ることはハッキングを意味する。となれば、ハッキングする前にデータの所在を知ることは当然であり、それがわからない、ということは何らかの異常を示唆していた。
 風景に異常は見られず、仮想空間を維持する機能は保たれているようである。島の端に立って眼下を見下ろすが、そこにはいつもの通り、分厚い雲海が占めるばかりであった。風の湿り気も良好、自身の姿を認識することに何の違和も感じない、と、ヤンケは手を握ったり開いたりしてみる。感覚も失ってはいないようだった。
 つまりは、とヤンケは仁王立ちになって結論に至る。
──どうやら迷子になったらしい。
「……」
 しばし中空を見つめて考えてみるが、ヤンケは溜息をついた。
「どこで何を間違えたのか全くわからない……おかしいなあ、道は間違ってなかったけどなあ」

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