Piece6



 ギレイオは頭をかきむしり、いらいらとした様子でヤンケの傍に屈みこんだ。
 うなじに装着した半円形の機械は静かなモーター音をたてながら、明滅する小さなランプの光で動作状況を示している。今は緑色を呈しているが、どう見ても、この状況が「順調」とは言い難い。ヤンケが天邪鬼に事を考えて、緑色を危険な色としたのなら、順風満帆な機械の働きと誉めることも出来るが、彼女の性格からしてそんな面倒なことはしないだろう。こと、コンピューターに関しては素直なのである。人に対してはその限りではなく、ヤンケ自身に対しても同じことが言えた。
 とどのつまり、周囲のどれも、ヤンケの状態を「危険」と示すものばかりである。
 だが、先刻、もらした言葉のように、ギレイオは実体のない物に関しては明るいとは言えない。ネットもその一つと言えた。
 機械を扱う以上、必要な知識は頭に叩き込んではいるものの、日々成長を遂げ、変化し続ける生物のようなネットワークに関しては、あまり興味が向かなかった。好き嫌いがはっきりと、知識と技術の探求に影響を与えており、ギレイオの頭には必要最低限の知識しかない。
 ヤンケが作り出したコンピューターならば、機械の一つとして処理することも出来るが、そのパーツにネットが加わり、更にはヤンケまで加わったともなれば、はっきり言って頭の痛い現実がそこに出来上がる。今のギレイオには適切に対処する方法が思いつかない。
──だが。
「……どんな機械にも、保険っていうのがあるんだよな」
 そう、ひとりごちて、半円形の機械から伸びるコードの先を辿る。コードの先はヤンケの椅子の下へと潜りこみ、その暗がりで緑色の光がゆっくりと瞬いているのが見えた。ギレイオは腕を伸ばしてそれを取り、はっきりと見える所にまで引きずり出す。
 目の前に現れたのは、いつだかギレイオが悪趣味と称した罠たちとは一線を画した、非常にシンプルな箱だった。箱の表面を横にぐるりと一周する、細い線の形をした緑色のランプを除けば、どこにでもあるような薄汚れた箱である。
 ただし、その中に詰まっているものはヤンケの知識の結晶なのだろう。
「それがこのざまじゃあ、まだまだ詰めが甘えんだよ……」
 ぶつぶつと呟きながら、箱をひっくり返した。
 大抵、動きの複雑な機械には「保険」と称して、何かしらの安全装置があるものである。それは機械の機能保全の為や、安全の為でもあるのだが、ここまで念入りに作られた機械なら、ヤンケが保険をつけないわけがない。決して自分の為ではないだろうと想像がつくあたり、変人と言われる所以がそこにあるのだが。
 箱の底には一見、何もないように見えるが、触れてみると微かに動く部分があることがわかる。そこを押しながらスライドさせると蓋がずれ、中には数字のキーボタンと、赤いボタンが並んでいた。
 暗証番号、といったところらしい。
 ギレイオは迷うことなく、思いついた番号を押した。



 ぎい、という音と共に木戸を開き、ヤンケは中を覗いた。

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