Piece1



Piece1


「……っざけんな!」
 勢いよく叩いた机から、工具が悲鳴を挙げて落ちていく。盛大な音をたてて落ちる工具たちには目もくれず、少年は二度、三度と怒りにまかせて叩いた。
「わざわざ来てみりゃバイクを直せ? 旧石器もいいとこの代物じゃねえか」
 少年の目の前では、男が小さくなって立ち尽くしていた。足元と少年とを交互に見比べ、何とか自身の正当性を主張する機会を得ようと待つこと既に二十分。少年の怒号にさらされすぎて、段々と自分に自信が持てなくなっていた。
 しかし、ようやく訪れた隙を逃すまいと決死の覚悟で反論した。
「旧石器じゃなくて旧文明だろう……」
「どっちも同じ!」
 だん、とひときわ強く机を叩いて男の常識を一蹴した。
「錆はついてるわ、古すぎるわ。大体、この型の部品はもうねぇの」
「そんな……」
 半ば泣き声に近い声で喘ぎ、男は後ろのバイクを振り返る。
 所々に錆がついて茶ばんだそれは、出すところに出せば良い値を与えられる代物だ。そうでなくとも、家族に向ける以上の愛情とコレクター魂を込めて手に入れたというのに、壊れているのでは話にならなかった。ないがしろにしてきた家族に売られる前にと、名誉挽回を込めて腕のいい修理屋に頼んだつもりだったが、やって来たのは男よりも遥かに年下の守銭奴だった。
 少年──ギレイオは鼻を鳴らして工具を拾い上げ、スパナを手の中で遊び始める。
「あんた、金あるんだろ」
 男は顔をあげる。その目には、にやりと口の端をあげて笑うギレイオの顔が映った。
「こんだけ豪勢な屋敷に住んでるんだ。あるだろうが」

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