Piece6



「すまんかったな」
 サムナは頭を振って応え、既に姿の見えなくなったギレイオが行った先を見つめた。



 沈黙する鋼鉄の扉を、ギレイオはノックもせずに押し開いた。室内からは独特の色をした光が零れ出し、いつもならばここでヤンケの批難が飛ぶのだが、どういうわけか今日は静かだった。壁の片面をモニターで埋め尽くし、その他はコンピューターの機械やらサーバーやら、ギレイオにもわからない機械で隙間という隙間を埋め、その合間に居城の主のための玉座が鎮座する。それとて、座り心地の良くなさそうな、どこかの車から引っぺがしてきた椅子なのだが、ヤンケに言わせれば掘り出し物なのだそうだ。
 その掘り出し物の上で、ヤンケは半円型の機械をうなじに付け、スコープを目に装着して、行儀悪く、足を目の前の操作卓の上に投げ出していた。
「……また変なの作り出したなお前」
 ヤンケの発明品はギレイオもいくつかは知っていたが、これは見たことがない。ギレイオがここを去ってから作り出したものだろう。どういう働きをするものかはっきりとはわからないものの、ただ眠るための物ではないことは、間違いなかった。
「ヤンケ、起きろ」
 ギレイオが近づいても返事がない。むしろ、無断で入室した際に基盤の一枚でも飛んでくるかと身構えていたギレイオだが、その点でもヤンケは反応を示さなかった。
 近づくにつれ、ギレイオはヤンケの異変に気付く。
「おい」
 ヤンケは浅い呼吸を繰り返していた。これを眠っていると言うには、あまりにも呼吸が浅く、早い。その割には口を大きく開けるわけでもなく、傍目には普通に眠っているように見える。
 ギレイオは反射的にモニターを見た。壁一面にぎっしりと詰め込まれたモニターの上半分は監視カメラの映像で、今は平穏な地下世界を映し出している。一方、下半分は、傍目にはどういう類の物かわからない表がいくつも表示されており、時折、新たな窓が開いてはまた別のデータが羅列されていく。まるで、誰かが操作をしているかのような動きはギレイオにも見覚えのあるやり方で、しかし、当の本人は両手の代わりに両足を操作卓に置いていた。
 となれば、この変人がやりそうなことなど容易に想像がつく。
「この馬鹿……!」
 さっと振り返り、ヤンケの頬を引っ叩いた。しかし、頬が赤くなっても声をあげることすらしない。もう一度叩いたところで同じ、とばかりにギレイオは小さく息を吐く。どうやらこの変人は自らの意識をコンピューター上に投影し、ネットとリンクさせることに成功したらしいが、その落とし穴にまんまとはまったようだった。
「実体のない物なんか、範疇外だぞ……」
 ぼやきながら、忙しなく動くモニターを注視する。どうやら、手に入れた情報をひたすらコピーして保存しているようだ。そう命令し続けるヤンケの意識が生きているならいいが、命令だけが独り歩きしている状態ならば危険である。

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