Piece6



「昔はな。飛びついてよじのぼって、向こうの玄関口から正々堂々と帰った。……ま、その後で」
 ギレイオもいつも通りの調子で応えると、おもむろに目前の壁面を力いっぱい蹴る。
 途端に、凄まじい音を立てて壁の一部が向こう側へと倒れ込み、「要塞」の内部が顔を出した。
「これ見っけてからは、ここ一本。やー、まだぼろいまんまで良かったわ」
「良くないわ、くそったれ!!」
 間髪入れずにゴルの怒声が響き渡り、悠々と帰宅を果たした二人を出迎える。外れた壁の先は「要塞」内壁に沿うようにして作られた通路で、その下に、先だって二人がやって来る際に壊した玄関が見える。俯瞰で見ると改めて広く、改めて散々な破壊ぶりだということを再認識させられた。
 その瓦礫の中で一人作業をしていたゴルは忌々しげに、通路から下へ階段を使って降りてくるギレイオを睨みつけ、次いで、その後に続くサムナを認めて表情を変えた。
「あーっ!?」
 ゴルの絶叫が響き渡り、ギレイオを押しのけてサムナに駆け寄る。直したばかりの左腕を確かめ、異常なほどに歪んだせいで、触れたところで手ごたえを感じるのに時間を要する脇腹を見て、がっくりとその場に崩れ落ちた。
 ギレイオは何でもないような顔で頭をかき、サムナに言った。
「お前は直してもらえ。じじいも年甲斐なく大声出してんじゃねえよ」
「買い物に行かせたのが、どうしていらん仕事を持って帰るんだ、この馬鹿者!」
「それだけ言えりゃボケもまだ先だ。腕がなまらないように頑張ってくれよ」
 手をひらひらとさせて、踵を返すギレイオにサムナは声をかけた。
「どこに行くんだ」
「ヤンケのところ」
 よろよろと立ち上がりながら、そう言ったギレイオを見つめるゴルを、ギレイオは微かに振り返った。
「ヘマしたな。足ついたぜ」
「やりあったのか」
「それでそのざまだ。好奇心の塊みたいなコンビだから、言えばやるだろうと思ったし、ちょっとそこに期待もしてたんだけどな。思ったより動きが早くて驚いた。ってわけで、ヤンケに釘さしてくる。じじいはそっちよろしくな」
 ゴルの言葉を待たずに、ギレイオはさっさとヤンケの居城へと向かっていく。
 その背中に溜息をぶつけ、ゴルは不満を押し込めてサムナを見上げた。

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