060.召し上がれ(6)


「あそこはなかなか厄介なパートナー同士だからなあ」

「スクラウディオがどうしたんだよ?」

 ナーティオが尋ねる。彼は聖女を専任とするために、ずいぶんと長い間、人の世界にいた。だから、仲間の情報にはいくらか疎い。これには耀が答える。

「あいつが専任に選んだのは男なんだよ」

「へ……嘘だろ」

 ナーティオは目を丸くして言った。耀も初めて聞いた時は、そう思った。

 彼らはどうしてか、専任とする人間には異性を選ぶ。それは陽が陰を得て完全になるためだとか、自分にはないものを得るためだとか、さまざまな憶測が飛び交っているが、吸血鬼の歴史が始まって数百年経つ今でも、詳しいことはわからない。わからないにしろ、それが決められた習性だとされるのは、未だかつて同性の専任を選んだ例がないからである。

 否、例がないわけではなかった。ただし、それらの例を研究し、学問の域にまで高められるほどに、同性を選んだ吸血鬼たちは生きることが出来なかったのである。同性の専任は獲物でも捕食者でも、そして専任でもない、全く新しい種になってしまうからだった。そんな彼らの血を飲み下したところで乾きは飢えることがなく、長命とされる吸血鬼でさえ、やがて死んでいく。同性を選んだ吸血鬼はえてして短命だった。

 それを、まさか自分の目で見ることになろうとは、と、スクラウディオを見た誰もが思っただろう。彼が専任としたのは、ごく普通の青年だった。

「……まあ、あらかたのことはわかるだろ。何にでもなくなった人間に、スクラウディオは自分の名前を与えたんだ」

「じゃあ、今は?」

「名無し。ヴェルポーリオは頑固にスクラウディオって呼んでるが、巷じゃスールって呼ばれてるな」

「血は?大丈夫なの?」

 耀はイーレイリオを見た。ヴェルポーリオから又聞きした自分よりは、イーレイリオの方が知っていそうだった。

「どうも、今までの例よりは長生きしているみたいだからな。何とか仕入れてんだろ。でも、人間のスクラウディオは生き血は吸えないって話だけどな」

「……それって生きてるって言えるのかよ」

「知るかよ。吸血鬼のスクラウディオもそれにならってるみたいだぜ。まあ、あいつは真面目だけが取り得みたいなバカタレだからなあ」

「イーレイリオとは大違いだもんな」

「うるせえ。ちびっこがいっちょまえに喧嘩売るな」

「お前らより大人になるのが早かったんだよ、ばーか!」

「あーあー。返し方もちびっこ。ケツまくって婆んとこ帰れ」

 仲良く喧嘩するナーティオとイーレイリオを置いて、ナイリティリアは心配そうにヴェルポーリオに問うた。

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