060.召し上がれ(4)
完璧にナーティオの方が負けていた。エルと幸仁ではないが、この二人もそれと近い間柄になりそうである。
さすがにナーティオが可哀想になったのか、ガルベリオは涙を拭いつつ話を変えた。
「そういや、イーレイリオには会ったか?婆さんを間違って連れ込んだってのを聞きたいんだが……」
「私ならここにいるが」
低い声がしたかと思いきや、ロビーの窓からすっと入り込んだ霧がガルベリオの肩あたりにまとわりつき、段々と人の形を成していく。そして数秒と経たぬうちに、不機嫌そうな顔でガルベリオの肩に腕を置いて寄りかかる青年が出来上がった。
「ったく……目覚めたばかりのヘマぐらい、お前らにだってあるだろ。それをわざわざ掘り起こしやがって、暇人め」
「平和ってことだろ。久しぶり。お前、人の前でも霧になるのはやめとけよ」
「知るか。で、そっちが噂の聖女と日本産か」
ナイリティリアが相変わらずの丁寧な挨拶をしているのを見つつ、耀は目を丸くしてイーレイリオを見た。考えてみれば、彼とは初対面であるが、噂になるような覚えはない。
「初めまして、耀です。オレが噂って」
「知らねえの?ヴェルポーリオとシラフでつるめる奴がいるって、有名だぞ」
「……」
出来ることならもう少し、いい噂が良かった。
「おれのお陰で有名人か。良かったな、これで初対面でも話題に苦労しない」
「……ま、同情はしてやるよ。悪名高いヴェルポーリオと付き合える奴なんか、今世紀中にはいないと思ってたからな、私は」
「悪名?」
初めて聞く。耀が聞き返すと、逆に、イーレイリオらは驚いたような顔になった。そして、おそるおそるといった体でナーティオが聞く。
「耀、お前なにも聞いてねえの?」
「なにもって……」
耀は我関せずといった風に、ナイリティリアと親しげに話すヴェルポーリオを睨みつけた。
「お前、何しやがった」
「やだなあ。君が知っていること以外のことはしていないつもりだけど」
「お前のつもりは一番怪しいんだよ……!」
興味深げにガルベリオが口を挟む。
「ふうん。まあそれで今まで大丈夫だったなら、これからも大丈夫だと思うけどさ。ヴェルポーリオ、お前ちゃんと話してやれよ。……って、悪い、電話」
胸ポケットに入れた携帯電話が鳴り、ガルベリオは素早く電話に出た。各人の研ぎ澄まされた聴覚が、電話の主の声を少女のものだと判断する。
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