060.召し上がれ(1)


 夜空に古城のシルエットが浮かび上がる。黒々とした城の輪郭は、月の白い光で縁取られ、幻想的な世界への扉を思わせた。ただし、この城がどういうものであるかを知っている者からすれば、むやみに近寄りたいとは思わないはずである。

 悪魔の巣窟、鬼の棲み処、地獄の釜の蓋などなど、悪名だけを並べあげたら片手では足りない。

「……まあ、城主が歪んだ性格の持ち主だったからね」

「お前が言うか」

 城へ至る坂道をのんびりと歩く、二つの人影があった。片方はモデル裸足の美貌を持った金髪の青年、片方は背が高く、黒髪を短くした青年だった。前者をヴェルポーリオ、後者を耀と言う。

 ヴェルポーリオはにこにこと笑って指を立てた。

「僕に少年愛の趣味はない。綺麗なものは好きだけど、ここの城主ほど無節操ではないよ」

「てことは、ここの持ち主は相当な変態だったってわけだ」

「納得の仕方に棘があるような気がするなあ」

「棘を込めてるんだよ。てめえの荷物を持たせやがって」

 耀は手に持った鞄を掲げた。その際に、がらん、とくぐもった音がする。中には日本で買ったワインが何本も入っていた。耀が買ったのではなく、ヴェルポーリオが買ったものである。

「ほら、高貴な血筋には従者がつきものだろう?お前は従者ではないけど、力持ちじゃないか。適材適所っていうやつだよ」

「高貴どころか化け物の血筋じゃねえか」

「あら、仲良しさん」

 後ろから女の声がかけられ、振り向いて見れば、銀色の長い髪をゆったりと結わいた女が歩いてくる。その後ろには彼女よりも頭一つ分、背の低い少年がついてきており、耀の顔を認めて手をあげた。

「ああ、良かった。知り合いがいた。一人ぼっちになったらどうしようかと思ってたよ」

 幸仁は幼い顔立ちに安堵を滲ませて言うが、これでも二十歳を迎えようとしている。童顔であることを得だ、と耀に笑って話していたことを思い出した。老け顔の耀からすれば羨ましい話だが、人間であった時には随分と苦労したという。

「お久しぶり。リオ、耀」

「久しぶり、エル」

 二人を愛称で呼び、また、ヴェルポーリオもエルラルディアを愛称で呼んで、軽く頬を寄せて挨拶した。絶世の美女ともいうべきエルと顔を近づけるだけで、耀などは未だに顔が赤くなってしまう。それを見たエルはくすりと笑った。

「やあね。いい加減、慣れなさいよ。ユキなんか、一週間で慣れたわよ」

「オレはそいつみたいに柔軟でいられないんだ」

「ただのウブだよ」

 しっかり茶々を入れるヴェルポーリオを耀は睨みつけ、エルの隣を歩く幸仁を見た。

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