057.コンビニ(3)


「大丈夫、大丈夫。それで?お父さん思い出すから、煙草嫌い?」

「思い出せない。思い出すほど記憶もないから。でも、お父さんみたいだから嫌い」

「きみにはないものだから?」

 一瞬だけ少女は身を硬くし、次いで、静かに頷いた。皮肉ったつもりがカウンター攻撃をくらったようになり、ガルベリオの方がぽかんとする羽目になる。彼が思うよりもずっと、彼女は自分のことを理解しているようだった。

 いつも獲物にしている年代と近い年頃のようだが、どうやら彼女はちょっとばかり違うらしい。

 少しだけ興味がわいた。

「ないものをねだるのは子供のすることだから、代わりに嫌いになろうと思った」

「……きみだって子供でしょう」

 頬杖をついて見上げる。すると、少女は初めて顔を悲しそうに歪めた。

「……わたしだってその方がいい」

 俯いて顔を歪める姿にガルベリオは慌てる。例え何歳であれ、女性を泣かすのだけはしないというのが彼のポリシーだった。とは言え、目の前の少女は普通とは違う。どうやって慰めたらいいのかわからずに困っていると、バイクや車のエンジン音が殺到してやってきた。

 派手な装飾と大音量の音楽、無駄にふかして音を高めるエンジンの合間に見えるのは下卑た笑いだった。前門の鬼、後門の虎とはまさにこのことだろうが、あいにく、ガルベリオは虎や鬼と同じ次元にはいない。

 それよりもずっと上位の種族──だからこそ、バイクや車から降りてきた少年らを見て覚えるのは恐怖ではなく、ただ美味しそうかどうか、それだけだった。

 もっとも、こちらにも獲物を選ぶ権利はある。悲しいかな、少年らはガルベリオのお目がねには敵わず、そうとは知らない向こうは二人の姿を認めると、いやらしい笑いを益々深いものにした。

──やっぱりまずそうだ。

「こんなとこで女の子泣かしちゃまずいっしょ、おっさん」

 ヤニ臭い息を吐きかけられて、ガルベリオは顔を背ける。こんな奴らの血など、死んでも御免だった。

「おれらその子に用があるからさ、おっさんは葉巻でも吸って待ってなよ。な」

 待ってろ、という割には穏やかでないのが、他の連中の様子である。用というのもあまり良くないものだろう。

──義理も何もありゃしないが。

 少女にはただ叱られていただけだった。

 だが、他の男が怯える彼女に手を伸ばした瞬間、ガルベリオはその手を捻りあげ、そのまま折ってしまった。

──義理はないが、興味はある。

 辺りに驚愕が走った。足元で泣き喚く男を一瞥すると、ガルベリオは葉巻を手に持って笑う。

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