079.賽は投げられた(3)
「花はねえんだな」
神さまが一輪車のバランスを取っていると、タオは辺りを眺め回してぽつりと呟いた。
「そういえば、ないな」
「嫌いなのか」
「嫌いではない。だが、この庭には最初から花はなかった」
「植えるつもりは?」
「……そこまで考えたことはなかった。花は必要だろうか?」
「庭っつうならな。一個や二個あったところで邪魔になるもんじゃねえし」
「ふむ。お前はどんな花がいいと思う?」
「俺に聞くのかよ。ここはてめえの庭だろうが」
「だが、ぼくは庭師ではない」
「……まあ、強い花がいいだろうな。俺が出て行くことになったら、どうせまた元に戻るんだろうしよ」
「では、運び屋に持ってこさせよう」
「ガキのくせに、人を顎で使うのが上手い奴だなほんと……」
ぶつくさ言いながらタオはゴミ袋の端を切り取り、ポケットからちびた鉛筆を取り出して、彫りこむようにして何かを書いた。そしてそのメモを神さまに渡す。
「その苗を持ってくるように言え。どうせ、てめえのオツムじゃ覚えてらんねえはずだ」
「ぼくは記憶力がいいと……」
「いいから、さっさと仕事しろ」
タオに追い払われるようにして、神さまは一輪車を動かした。急ぐ気のないおっとりとした足取りを眺め、タオは溜め息をつく。
その時、不意に頭の奥が痛み、吐き気が喉をせりあがってくるのを感じた。
神さまが門へ着くと、ちょうど運び屋が顔を出すところだった。一輪車に乗ったゴミ袋の山を見て、目を丸くする。
- 160 -
[*前] | [次#]
[表紙へ]
1/2/3/4/5/6/7/8
0.お品書きへ
9.サイトトップへ