078.クーデター(1)


 助けてくれ、という声が聞こえたのは早朝のこと。朝も早くから優雅にお茶を楽しんでいた神さまは門の方を見た。

「助けてくれ、と誰か言ったな、今」

「そうですか?ちょっと見てきましょう」

 運び屋はポットを置き、門へ走っていく。そしていくらも経たない内に、服を血や土で汚した老人を連れて来た。

「さっきのは彼が?」

「のようです。路上で寝泊りしていたところを、襲われたみたいですね」

「怪我をしている」

「深くはないようですが。神さまは血は平気ですか?水と救急箱を取ってくるので、見ていてほしいのですが」

「わかった」

 運び屋と場所を入れ替わり、神さまは老人の横に膝をつく。汗のすえた匂いと、血の匂いがした。被っているのか乗せているのかわからない帽子を取ると、幸いにも頭に怪我はない。老人は不安げな目で神さまを見た。

「……あんた……」

「心配はいらない。ここはどこよりも安全だ。ゆっくり休むといい」

「ここは……庭か?」

「そうだ。実は屋敷も倉庫もあるらしいが、ぼくは一度も見たことがない」

「……全然、手入れがなっちゃいねえ。草も木もまるで適当だ……庭っつうより雑木林じゃねえか」

「あれ、いつの間に仲良くなったんです」

「今のは明らかに非難だと思うんだが」

 運び屋は老人の傷口を拭き、てきぱきと手当てをしていった。幸いにも深手は負っておらず、運び屋が手当てを終える頃には自分で座ることが出来るまでに落ち着いていた。老人はタオと名乗った。

「世話になって悪いが、金はねえ。臓器を売ろうにも、こないだ腎臓を一個やっちまったばかりだ」

「ぼくは商いなどした覚えはない。運び屋、お前に向けた話だろう」

「僕がここで行うことは完全無償ですからねえ。それにね、臓器は専門外なので他を当たって下さい」

「お前でも扱えないものがあるのか」

「何でも運びますが、臓器みたいな生ものはデリケートな処置が必要ですから。僕が行く所はそういうデリケートさとは無縁の所なので、難しいんです」

「……おい。俺の話はどうなった」

「さて、どうしたものか。お前はどうしても対価を払いたいのか?」

「このご時勢に無償だのボランティアだの言う奴は、一番信用しちゃいけねえ奴だ。借りは必ず返す。それが命の保障になるんだ」

「つまりはどうしても払うということだな」

「払わなくてもいいなら、あんたらを殺してでも逃げるさ」

「……そう簡単にぼくが死ねるとは思えないが、さすがに運び屋は死ぬだろうな」

「一応、僕は人間ですからねえ」

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