069.猫舌(1)


 試験期間が終わり、学都の雰囲気も何となしに弛み始めている。今回はぎりぎりで追試を免れたからいいようなものの、と魔法基礎学の講師に呼び出されていたヨルドは、駆け足で校舎の間を走り抜けていた。

 学都の中は本当に広く、新入生は地図なしでは生きていけない。それは校舎以外に実験棟や動物の飼育施設、運動施設や図書館があり、植物園だけでも種類ごとにいくつも存在するからだった。もちろん生徒のための娯楽施設もあり、喫茶店やケーキ屋、食堂に雑貨屋、小さな映画館までもある。学都という名の通り、本当に小さな町の様相を呈していた。

 行動派を自負するヨルドでも、学都の全てを知ることは未だに出来ていない。だが、その中で見つけられたいくつかの「お気に入り」には、よく足を運んでいた。

 今もその「お気に入り」で、パロルが待っているのである。

「何で私だけ……!」

 自慢の俊足を駆使してどうにか「お気に入り」の喫茶店へ辿り着くと、窓辺のカウンター席でパロルが手を振った。

「遅かったのね」

「ほんとにもう、私に恨みがあるとしか思えない。今回は頑張ったのに、何で追試受ける奴呼ばないで私を呼ぶかな」

 ぶつくさと呟きながらも、やってきたウェイトレスへはきっちり注文を済ませた。

「それだけ期待してるってことじゃない?」

「期待してるなら、もっと得意分野を伸ばすとかさあ。ねちねち叱られたって、嫌味が増すだけだって」

 更に言い募ろうとした時、ヨルドははっと思い出したように辺りを見回した。

「どうしたの?」

「いや、またリドゥンに聞かれてたら嫌だなって。あいつ、どこで聞いてくるのか知んないけど、私の愚痴の揚げ足を取って笑うんだもん。どこであんなに性格ひん曲がったのかなあ」

「リドゥンは優しいと思うけど」

「そうお?」

 店内にそれらしき姿はなく、ヨルドはほっとした風に、運ばれてきた紅茶とアップルパイに飛びついた。甘い香りが、ささくれ立った気持ちを一瞬にして静めてくれる。

「それで?どうしたの?」

 いつもはヨルドがパロルを呼び出すことが多い。だが、今日は珍しく、パロルからの誘いだった。

「うん、あのね、ヨルドに言っておきたいことがあって」

「……学都を出る日取りが決まったの?」

 そうじゃないの、と言ってパロルは苦笑しながら手を振った。

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