067.修正ペン(3)


 この気遣いのなさまでも、サジェインにそっくりである。思わずイードは頭を抱えてサジェインの様子を見たが、そんな言葉さえも彼の耳には届いていないようだった。ありがたいような、寂しいような気分になる。

「なんだ、当たりか?」

 イードの様子を見ながら、メイオンは引き出しから煙草を取り出した。

「当たりすぎてもう……先生ももっと人の空気を読む練習した方がいいですよ」

「おれが空気読めないみたいな言い方するなよ」

「読めてないじゃないですか。当たりだからサジェインは落ち込んでるんだし、僕らの話だって聞こえてない」

 メイオンは煙草をくわえたまま、身を乗り出した。

「……なんだ、マジか?本当に?」

 今、初めて事態の真相に気付いたとでもいうように、メイオンは目を丸くする。イードは真面目に諭すのも馬鹿馬鹿しくなり、投げやりに「そうですよ」と言った。

「直接、聞いたわけじゃないみたいですけどね」

「なんだっけ、そいつと同郷の」

「パロル?」

「その子にか?」

「先生、よく知ってますね。……まあ当たり前か」

「確かその子、五年卒志望だろ。知ってるさ、サジェインのそれがなくても。成績いいのにもったいねえって思ったもんな」

「先生が?」

「だからお前、おれを馬鹿呼ばわりすんのやめろっての。……そうか、仲良さそうに見えたのにな」

 あれが?と問うて、イードは大きな溜め息をつく。思考回路までサジェインそっくりに出来ているようだ。

「立派なサジェインの片思いじゃないですか、あんなの。それにサジェインが気付いてないから、パロルも迷惑してたんだと思いますよ」

「じゃあそれ、パロルもそいつのことが好きだったってことじゃねえか」

「パロルが?」

 イードは考え込むようにして、膝の上で頬杖をつく。

「ああ……そっか、なるほど。やだなあ、僕までサジェインの思考回路に毒されてる」

「何が」

 メイオンの問いには答えず、イードは手持ちの本を閉じて、呆けたままのサジェインの頭めがけて振り下ろした。メイオンが止める間もなく鈍い音が響き渡り、それに対してもサジェインはのろのろとした反応しか見せない。

「おはよう。目は覚めた?」

「……痛ぇ」

「なら良かった。これで何も感じなかったら、サジェインの髪でも焼いてるところだよ」

「……」

「いつまでショックを受けてるのさ。パロルに本当に嫌われたのかどうか、それは確かめられたの?まだだろう。遠目にリドゥンと一緒にいるのを見て、勝手にショック受けて逃げ帰ってきただけじゃないか。それは君にとって答えと言える?」

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