067.修正ペン(1)
学都において、生徒ならびに教職員がペットを飼うのは禁則事項とされている。命の尊さを学ぶのならば、学都の飼育施設で飼われている動物たちで充分であり、愛玩のために私物としてペットを所有するのは学業の妨げになるとされているのが一つ。もう一つに人間へも感染するような病原菌を保有していた場合、学都のように内部で完結した場所では、外以上に感染が爆発的に広がる恐れがあるためとされているのが一つ。
様々な言葉を駆使して、校則にはつらつらと理由が書かれているが、それらは建前に過ぎない。長ったらしい文面が総合して言いたいのは、ペットによって学都の風紀が乱されるのは断じて許さない、ということだった。それでも、規則の網の目を抜けてペットを飼う者も後を絶たず、ペットを取り上げようと躍起になる教職員の手をかいくぐり、強かに生き延びている。勿論、中には運悪く捕まる者もいた。大抵は謹慎二日と反省文で済み、取り上げられたペットは地元の牧場へと送られる。ペットショップに送られないだけマシとも言えるだろう。
さて、傍目には軽く見える罰だが、この反省文が曲者だった。原稿用紙四枚にわたって反省をつらつらと綴るだけなら簡単なものだが、その先のチェック機能が恐ろしく厳しいのである。試験よりも厳しいとされる中には、学都の講師三人がランダムな交代制でチェックを行っているために、傾向対策がつきにくいということが挙げられた。
例えば、今もメイオンが自身の講師室で三日前に提出された反省文をチェックしているが、はっきり言ってメイオンは自分の国語力に自信がない。その上、ペットごときで反省文を書かせる学都の規則も嫌いだった。だから自然とチェックは甘くなるが、メイオンの次に判定する講師は彼よりも厳しい判断を下すだろう。そして、三人目の講師が二人の判定を受け継いで、また独自のチェックをする。そうして総合的な判定が良ければそこで終わり、悪ければ生徒に差し戻されて書き直しの憂き目に合うのだった。
規則に反抗的なメイオンとしては、どうにかこの反省文を通してやりたい。そのためには、良くもなく、悪くもない判定を下さなければならなかった。どちらに傾いた判断になっても、次の講師の判断に影響を与える。
さっと読んだ限りでは良い反省文なため、少々、意地悪な判断を要するだろう。それもこれも、メイオンの国語力にかかっていた。
「……でも、先生って苦手でしたよね、国語」
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