空への足音

11月22日 昼(5)


 どうするか、と考えた末にウズはセレナを乗せて飛べばいい、という結論に達したようだった。そして、それをするべきは自分なのだと、セレナのことを一番によくわかるのは自分なのだから、と。
 純粋で、ある一面では正しい主張だが、だからといって適性が唐突に身につくわけがない。皆で止める一方、セレナは強く否定できず、こうして今日のように衝突が起き、それを止める術をセレナは模索しているが、答えはまだ出ないようだった。
 セレナに手当をしてもらってご満悦のウズを眺め、フロエは呟く。
「……まあ、ウズが言うだけじゃなくて、最近は飛行機に触っても石化のスピードが速いんだよね。キーシャも言ってるんだけど、前より範囲が広くなってるって。それが体の表面だけならいいんだけどさ」
「中までになるとお手上げだもんな……」
 ふう、と吐いた溜め息を暖かな風がさらう。コロニーの現在の気候設定は春、外には穏やかな風が吹いていた。
「そーれで急いて飛行機壊してちゃ意味ねえんだよってこと、どう言ったらウズに理解してもらえるもんか」
「スイみたいに一発」
「火に風を送ってどうする。……とにかく、飛行機を飛ばすだけじゃなくなったってのは、なんか、俺らのスケール感からはみだした目標だよなあ」
「コロニーん中で無許可で飛行機飛ばそうってのも、結構なスケールだけどねえ」
「……そもそも、セレナって何者よ」
 思わず立ち返りたくなるのもわかるが、と面食らったフロエとマナヤの間に穏やかな風が吹き抜け、それに乗ってトッカの声が届く。
「戻ってきたよー」
 暢気な声にはらむ第二ラウンドの気配を察し、マナヤは本日何度目かの溜め息をついた。
「しょうがない。俺、レフェリー。お前、セコンド」
 自分とフロエを指さして言う。フロエはあからさまに嫌そうな顔をした。
「何それ。私、スイのセコンドとかやだよ」
 どう転んでも乱闘になるのは目に見えている。ここ数日の徹夜で寝不足もイライラも最高潮だろう。それも、本来ならしなくてよかったはずの徹夜、本番を前に悠々と最終チェックをするだけで良かったはずの数日を犠牲にしての修理で、普段から愛想のない男だが、ここ数日はいっそう人相が悪くなっている。
「最近は輪をかけて怖いし」
 マナヤは胸の前で手を振って否定した。
「違う、違う。ラナのだよ」
「ラナ? ウズと?」
 そう、と言って、連れてきたスイをなだめているラナをマナヤは眺める。
「一番の物事の中心人物はあいつだろ」
「まあ、そうだね」
「だから、あいつにウズをまるめこんでもらう。というか、そうさせる。明日が本番なのにいつまでもぐちぐち付き合ってられるか」
「それが本音かあ……」
 他人事のように言い、後頭部で手を組んで歩き出したフロエにマナヤは続いた。
「お前、他人事みたいに言ってるけどセコンドだからな。終わるまで付き合えよ」
 え、と濁った返答をして立ち止まるフロエをマナヤが追い越した。
「俺が犠牲的精神でレフェリーやってやるって言ってんだから、犠牲者は多いに限る」
「は!? なんで私だけ!」
「だから、俺とお前」
「トッカは? キーシャも」
「喧嘩の仲裁が向くような奴らじゃない」
「喧嘩前提かよ……」
 始末におえない、という風に頭に手をやるフロエを置いて、マナヤは皆の下へ戻る。そうして始まろうと──否、始めさせようとしている第二ラウンドを思い、苦笑した。





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