空への足音

11月22日 昼(4)


 まず、セレナは初め、喋れなかったと皆に思われていたが、実際には声を出したことがなかった、の間違いであった。そして声が出せるようになると、彼女はマナヤたちの言葉とは違う言葉を語った。どの文献をあさっても彼女の言葉に該当するものはなく、コミュニケーションをどうとるかと悩んでいる間に、セレナの方がマナヤたちの言葉を驚異的なスピードで学んだのである。その橋渡しとして一役買ったのもウズであった。
 次いで、彼女にはここに至るまでの記憶がなかった。従って名前も憶えておらず、セレナという名前も皆で考えたものだった。
 自分が何故ここにいるのかもわからないセレナに目的を与えたのも、ウズだった。自分はグズで馬鹿だけど、セレナが傍にいるとそれでも頑張れる気がする──そんなようなことを言ったようであり、それがセレナには随分と励みになっているようだった。反面、そのせいでウズに関わることがセレナの弱点にもなっている。
 それが、ウズのパイロットをやりたいという「我儘」を通してしまうのだった。
「……俺たちにはわからんからなあ」
 マナヤは首をさすって唸った。
「セレナの体調のこと?」
「そう」
 セレナの調子が悪い。ウズがそう言い始めた時、誰も信じはしなかった。嘘ではないが、誇張されている部分もあるだろうと、まともに取り合わなかったのである。
 だが、ウズが言い始めて数日後、セレナはよく転ぶようになった。それも、何もないところで足をもたつかせて転ぶことが多く、その変化に誰もがさすがにおかしいと気づいた。そうして確かめて見れば、体の一部分が石化しているのである。
 どうしてそうなるのか、どうすればいいのか、マナヤたちの質問に対してセレナはわからないとしか言えなかった。実際、セレナの記憶の欠如は相当なものであり、自分が岩から変化したのだとフロエに告げられても最初はきょとんとしていたほどである。対処法などわかるはずもなかった。
 そうこうしているうちに、ウズはセレナをよく飛行機に触らせるようになった。自分ではなく、セレナに触らせるのである。マナヤたちが自分たちで飛行機を作り、飛ぼうと計画している、というのはセレナも知るところであり、キーシャの所に住んでいる傍ら手伝いもしていた。だが、意識的に飛行機を触ったことはなく、皆もさして気には留めなかった。
 それを、ウズが意識的に触らせているので必然的に誰の目にも留まる。何故か、と問うと「こうするとセレナが楽になる」と答えた。どういうわけかと女性陣が改めると、驚いたことに石化していた部分が元に戻っているのである。
 理由は不明、原理も不明、とにかく飛行機に触らせると石化の速度はやわらぐ。ただし、石化がなくなるわけではない。

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