空への足音

11月22日 昼(3)


 何とか収まるところに収まった、とマナヤは胸をなでおろし、格納庫の中に向かう。その後にフロエも続いた。
「今回は大丈夫そうか?」
 飛行機の羽根の下をくぐりながら問う。
「スイが相手になってたからね。本人にその気があったかはわからないけど」
「あっちもかっとなりやすい奴だからなあ」
 以前、やはりウズが事態の中心となって喧嘩が起きた時に、飛行機の部品を壊したことがあった。衝動に任せてやってしまったことだが、以来、ウズが興奮し始めた時には、壊されたら困るものは皆で遠ざけるようにしている。今回に関しては、その衝動の矛先を意図してか無意識にか、スイが自身に向けさせたために無事だった。
 二人でさっと点検した限りでは無事であり、マナヤとフロエは格納庫の奥に立った。ここなら外にいる三人にまで話し声は聞こえない。
「セレナの状態はそんなに悪いのか?」
「本人は認めたがらないし、私たちもよくわからないんだけど。ウズが言うには、結構」
 マナヤは腕を組んで唸った。
 ある日、彼らの目の前に落ちてきた「異常」。それは人の背丈ほどもある大きな岩であった。
 彼らの住まう世界において、そんなものが上から落ちてくる要素はどこにもない。月の岩がどこからともなく転がって落ちてきたのだと言うのなら、それは大問題である。無論、コロニーに異常が発生したという情報はなかった。
 となれば、この大きな岩はどこから来たのか、という疑問につきるわけだが、マナヤたちが数時間かけても出なかった答えを、岩自身が回答したのである。つまり、岩からセレナが生まれたのだった。
──とマナヤやスイが言うと「想像力が貧困」とラナたちに非難されるのが常で、実際には岩が光を放ちながら粘土のように自ら変形し、そうしてセレナを形作ったというのが正しい。生まれたにしても形作ったにしても彼らが持ち得る常識からは大きくジャンプして離れたものだった。
 人の形をしてはいるが、人なのか岩なのか全く別の存在なのか。誰一人として病院や警察に連れて行こう、と言う者はいなかった。他人の手に委ねて何もわからなくされるよりは、自分たちで「わからない」と知恵を捻った方が楽しいに決まっている。そういうお気楽な感覚が一番に強く、二番はセレナの美しさにウズがすっかり懐いてしまったというのがあった。
 元より、綺麗なものが好きな性格ではあったが、セレナに対する懐きようは一段と凄かった。キーシャに対する以上の懐きようで、しかし、そうしてセレナの周りに常にいたお陰で彼女のことを一番にわかるようになっていった。

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