あまおと


 僕は雨が嫌いだ。
 はっきりとしない雲、まんじりとして吹く風、湿気を含んだ障子紙、鼻をつく水の匂い。
 いつもは気にしない一つ一つの輪郭が浮き上がり、僕の気分をささくれだたせる。晴れの日にはあれほど好きな風景の全てが、雨の幕を隔てると一気に本性を剥き出しにして、攻撃的になるのだ。
「……気のせい。……思い込み」
 雨を見た途端に憂鬱になる僕を、周りはこう、評する。その言葉に傷つく一方、言われた内容にすがりつきたい気分にもなった。
 気のせい。思い込み。
 そうであるならどれだけ良いか。
「……違う……」
 また、雨が一滴垂れる。
 頬を流れる温かな雨。


──僕は雨が嫌いだ。
 はっきりとしない雲、まんじりとして吹く風、湿気を含んだ障子紙、鼻をつく水の匂い。
 その中を駆けてゆく草履を吐いた女の足が、段々と自分から離れていくのがわかる。
 行かないでと声をあげることも叶わなかった。待ってと手を伸ばす間もなかった。雨で冷えきった体にそんな体力は残されていなかった。
「……」
 いつか雨と共に、僕を捨てた母親が戻って来ることがあるのだろうか。
 だとしたら、やはり僕は雨が嫌いだ。




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