aereo;3──terzo
「また、落としたって」
──当たり前だよ。
「一人で三機も」
──もう一人が頼りにならなかった。
「すごいな」
──そんなことを軽々しく言う奴は、一生かけても私のようにはなれない。
きっと、ミワのようにもなれないだろう。
「……おい、勝手にいじくんなよ」
アヤセがむき出しになったエンジンを見ていると、格納庫の入り口からタカナワが声をかける。半分だけ開いたシャッターからは朝日の淡い光が顔を覗かせていた。
タカナワは眠そうな目をこすり、あくび混じりに近づいてくる。作業着姿なのは徹夜したからだと察しがついた。ということは、とアヤセは再びエンジンを見る。彼の徹夜の相手はこいつだろう。
「異常は?」
「ないよ」
「じゃあ徹夜の理由は?」
「上官じゃあるまいし……」
「私の機体だ。気になる」
強く主張するとそれに観念したらしく、タカナワは機体の側に近づいて、アヤセを見上げた。整備用の階段付きの台に乗っていたアヤセは彼を見下ろす。
「一度よく見ておきたかった。それだけだ」
「それだけで徹夜?見るだけなら一晩もかからない」
「見るだけならな。お前の使い方だとエンジンが参ると思って、点検ついでだよ」
「それで」
「異常はない。元気なもんだ」
「そう。ありがとう」
アヤセは台から飛び降りる。その反動で台のスプリングが少しだけ沈んだ。
「でも、これからは私に無断でやらないでほしい」
少々、ムッとしたようにタカナワは眉をひそめる。
「命令か?」
「そんな資格はない」
「ミワのためか」
「……いちいち面倒なことを持ち出す奴なんだな、君は」
そうだよ、とアヤセは言うと、格納庫を出ていった。
後ろでタカナワが蹴ったのか、がん、と大きな音がした。しかし、アヤセは振り返らなかった。いくらタカナワでも、戦闘機を蹴るのは整備士の魂を蹴るのと同じことだから、するはずがない。
だから、道を曲がる時にちらりと見た時、やはり彼は蹴っていなかった。
台が小刻みに震えてるだけで、アヤセはゆっくり歩き出した。
fin
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