番外編 王城狂想曲



 どう考えたところで、ラバルドは三爺とイークの日常行事に巻き込まれた憐れな被害者である。せめて、となけなしの反抗心を奮い立たせ、ラバルドは息を吸い込んだ。
「……確かに、この度の件は過ぎた行いだったと思います。しかし、アート様がたの心中もお察しください。心より心配しておいでです」
「何を吹き込まれたのか知らんが、心配だ心配だと騒ぎ立てて、私の寝所にまで張り込むような連中だぞ。どれだけ健康な男でも、それを三日三晩やられれば発狂する」
「……やったのですか」
「四日目で私が切れた。知らぬのならエンヌに聞いてみろ。馬鹿馬鹿しくて話もしてはくれんだろうがな」
「で、ですが心配される心だけは本物でしょう」
「それだけはな。それだけが空回りするから厄介なんだ」
 まあ確かに、とラバルドは内心で大きく頷く。最悪の敵と思った相手は、どうやらある一点ではラバルドと共通した部分を持っているらしかった。被害者同士、妙に通じるものもあってそれ以上言い募ることも出来ず、ラバルドは嘆息する。
「……わかりました。これ以上、僕から申し上げることは何もありません」
「それでいい。選ぶべき時に自分で選ぶ。……今回進めてしまった話は私で始末をつけるが、今後、余計な心配はするな」
 下がっていいぞ、と言われ、ラバルドが踵を返した時、イークが思い出したように、その背中へ声をかける。
「何か」
 イークはラバルドが来た時と同じように、体を横に向けて、窓の外を眺めている。
「退室するついでに、頼みがある」
 ラバルドは胃の奥がぞわりとするような感触を覚えた。
「……何でしょうか」
「なに、簡単なことだ」
 イークは指を組んでみせたが、その際、ラバルドは軽く指を鳴らす音が聞こえたような気がした。
「アート、バルカート、イスカートの三人へ即刻参上するように伝えろ」
 もう一度、今度は間違いなく指を鳴らす音が聞こえる。
 イークはもともと武人だった、という言葉を今さらながらにラバルドは思い出していた。
「……代償という言葉を、身を以て思い知らせてやろうじゃないか」
 抑えた口調には隠しきれない怒りが滲み出ていた。
 どうやら自分は本当に温情を与えられたらしい、とラバルドは心底ほっとすると同時に、この君主はこういう気質の持ち主であることは、アートらの方がよくわかっていただろうに、と彼らの行動の浅慮さに憐れみすら抱く。無論、それはこの先待ち構えているであろう、イークの言うところの「代償の意味」とやらが、容易に想像がつくからである。
「……お三方ともご老体ですので、無理はなさいませんよう」
 一礼し、ラバルドが口に出来たのはそれだけだった。
 後日、城内全ての部屋という部屋から倉庫から、廊下まで何もかもを含めた全てを、しおしおと掃除するアートらの姿を見かけたが、ラバルドはもう彼らに何かしらの気遣いを持とうという気にはならなかった。
 その更に後、イークの執務室の前で大量の水が入ったバケツを持って立たされている三爺の姿があった。時間を置いても尚続く「代償の意味」は、改めて、この君主には余計な手出しはしないでおこうという教訓を、城内の全ての人間にしっかりと植えつけたのだった。


終り

- 862/862 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]



0.お品書きへ
9.サイトトップへ

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -