番外編 王城狂想曲



「さすがに普段、私に対して口を酸っぱくして言うだけはある。自身の仕事の不備には恥すら感じていることと思いたいがね」
 言いながら、両肘をひじ掛けの上に置き、手を組んだ。
「久しぶりに人の仕事の尻拭いをした。さて、弁明は?」
 ラバルドは息を飲みこみ、頭を下げた。
「申し訳ございません。弁明する余地など、与えていただく資格もございません」
「無論だ」
「どのような処分でもお受けいたします」
「それで? 処分を受けてここを去れば満足か。随分とここの仕事も安く見られたものだな」
 しかし、とラバルドは声を振り絞るようにして呟いた。自責の念がラバルドの頭を押さえつけているようである。顔を上げてイークを見ることが出来ないようだった。まるで、見れば何かが自身を射抜くと思い込んでいるようでさえある。
 イークは内心でおかしくて仕方がなかった。
──ラバルドの仕事に不備があった。そう言って呼び出しただけで、まさかこんなにもいい反応を返してくれるとは。
「そんな甘い考えでいるのなら、お前の代わりはいくらでも見つける。喜んで処分を受けるがいい」
 ふ、とラバルドの萎縮した空気が変わった。
 イークがおやと思う間もなく、ラバルドはそれまでとは違う、張りのある声で言う。
「……おそれながら陛下、僕は己の代わりを務められる者はいないと自負しております」
「では、自信過剰という言葉をお前には与えてやろう」
「どのような言葉でも甘んじていただきましょう。しかし、重ねて申し上げますが、僕の代わりはおりません」
「根拠のない自信は愚か者の象徴だ。そうなりたくなければ、根拠を言え」
「ベリオル様に比べれば短い時間ではありますが、陛下にお仕えした己の時間です。それが、僕の自信にございます」
 声や言葉に迷いはなく、顔を上げることが出来れば、隻眼には確かな自信が宿っていることだろう。
 イークは口許に微かな笑みを浮かべ、ラバルドに向き直り、執務机に頬杖をついた。
「確かに、私の前で堂々とベリオルの名を口に出せるのはお前ぐらいなものだ。ついでに嫌味を言えるのも、三爺とエンヌをおいてはお前ぐらいしかいない。その遠慮のなさが面白いんだが、今日はまた一際面白いものを見させてもらった。本当に不備があった時は一体、どれだけやらかしてくれるのか楽しみにしているぞ、ラバルド」
 ラバルドは一瞬ほっとしかけたが、ふと、気になる言葉を見つけて、頭を下げた体勢のまま、顔だけでイークを見据えた。
「……今、本当に、と仰いましたか」
 イークはにっこりと笑ってみせる。

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