番外編 王城狂想曲



「シャルはおれの姉貴なんです。だから、おれの分も貰ってるから多いのかなあと思って。今日はたまたま炊事場でしたけど、おれ小間使いだから大体どっかに出てるし、それをラバルド様が気遣ってくれたのかなってのはおれの想像ですけど。……おれ、何か変なこと言いましたか?」
 話の途中からイークどころかエンヌまでも小さく笑いながら聞いているので、シャイムは不思議そうに問うた。シャイムはありのままを伝えただけなのに、どうやら二人には全く別の話が見えていたらしい。
「なるほど……それは不公平というか、わかりやすすぎるというか」
「もう少し機会をお選びになればよろしいでしょうに。……笑って、というあたり、侍女たちもいくらか微笑ましく思ったのでしょう。噂にならないのも当然です」
「噂好きの連中が守ったか。随分、強力な味方に支えられてラバルドも幸せだな。まあ、三爺にはさすがに通用しなかったか」
「いかがなさいますか、陛下。先ほど、えげつないと仰いましたが」
「全く、どいつもこいつも手のかかる……。シャルを引っ張り出す必要はない。ラバルド本人と話をつけるとしようか」
 エンヌは微笑した。
「参謀殿の居場所はご存じなのですか?」
 これに対し、イークはにやりと笑う。
「なに、国王の権力を使えば一瞬だ」



 執務室にはゆったりとした夕陽が差し込んでいた。今日一日のイークの労苦など知らぬ顔で、穏やかな橙色の光は風景も執務室の中も優しく包み込む。
 座り続けることと仕事の多さを関連づけて考え、嫌っていた執務机の椅子に座れることがこんなにも安らぐとは思いもしなかった、とイークは一息吐く。何時間ぶりかに飛び出す、安堵の息でもあった。
 そうして目を閉じ、その時を待っていると、素早く扉をノックする音が響き渡った。音は軽いが、気は急いている──それもそのはずだろう、とイークはしたり顔で「入れ」と言う。
 途端に扉は素早く開き、ノック音の通り、表面上は落ち着いているものの、その内心を隠しきれないといった様子でラバルドが姿を現した。所作に乱れはないが、いつもなら落ち着いた足取りは早く、イークを見下ろす顔面は蒼白だ。このわかりやすさが面白いんだ、とイークは内心で呟いた。
「早かったな」
 椅子を横に向けた状態で、ラバルドをちらりと見る。

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