番外編 王城狂想曲



「陛下の御身を心配なされてのことと思いますが」
「度が過ぎると言うんだ」
「では、そのようにご忠告申し上げればよろしいでしょう」
「忠告程度で引き下がるような老人じゃない」
「では、ご命令なさいませ。陛下は王なのですから」
 エンヌとの言い合いに乗り出した身を、イークは思わず引っ込めた。
「こんなことに国王の権限を発揮する必要はない。私、個人の問題だ」
 エンヌは数秒、黙した後、小さく息を吐いた。まるで自分を諭す時の母親のようだ、と隣で見ていたシャイムなどは思ってしまった。
「だからこそ、アート様はご心配なさっているのです。個人の問題だからと、陛下はご自身の事を見境なく後回しになさいます。良い王には、臣下は末永くお仕えしたいと思うものなのですよ」
「褒めてくれるのか?」
「皮肉ととっていただいても構いませんが」
 ぴしゃりと撥ね退けるエンヌに対し、イークは苦笑した。
「……まあ、真相はどうあれ、そう思われることに悪い気はしないが、だからといって私の子孫が良い王になるという保証はどこにもない。確約出来ぬ予測を希望と言って、私に押し付けるのは違うだろう。そんなことの前に、まず己の目を磨けと言いたい。王を選ぶのは私じゃない。次の世代のお前たちだ」
 言いながら、イークはシャイムを見据える。思いがけず鋭い視線に射抜かれたシャイムは肩をすくみ上がらせたが、その視線が形ほど鋭いものではないと知り、口を開く余裕を見つけた。
「……陛下は、その、何が嫌なのですか?」
 率直な質問は、イークよりもエンヌの方を面食らわせた。隣で目を丸くするエンヌを見て、イークはくつくつと笑う。
「いいものが見れたな」
 エンヌは咳払いをし、横目でシャイムを見ながら答えた。
「この者は日も浅いので、陛下がお抱えになっておられる問題を知りません」
「城内で追いかけっこをなさっていることですか?」
「それが問題なら、私の常勝だ」
 にやにやと面白がっているだけのイークに反し、エンヌは諦めて事の次第を話す。とても端的に、あっさりとした説明の後も、シャイムはやはり同じような質問を繰り返して、言葉を続けた。
「……おれの」
「陛下の御前です」
 エンヌに嗜められ、シャイムは慌てて言い直す。

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