番外編 王城狂想曲



「ここにあるのは、売れずに残った物だ。日記や絵など、本当に個人のための品物だけが残っている。あとは、私が個人的な倉庫として使わせてもらっているが、まあその辺りは見逃しておいてくれ。なんせ、ラバルドや三爺にも知らせていない」
「ラバルド様がお知りになれば、卒倒なさりそうです」
「だから、これは我々だけの秘密だ。いいな、シャイム。ラバルドを心労で倒れさせるなよ」
 はい、と神妙な面持ちで頷くシャイムが可愛らしかった。エンヌにしてみれば悪ふざけの延長にしか見えないが、シャイムにとっては雲上人と言ってもいい国王と秘密を共有するのである。そんなことが自分に許された、という事実が、シャイムに僅かな責任感を与えたようだった。
 その様子にエンヌは微笑み、イークへと向き直る。
「それで、まさかこちらをわたくしたちに見せるために、連れて来たわけではないと存じますが」
「ここなら安心して話せるから連れてきた」
 イークは腕組みを解き、真剣な顔でエンヌを見据える。
「私は今追われている」
「アート様がたのことですね。いつものことと、それはよく存じております。それが、何か」
「それをどうにかして私の勝利に収めたい」
「いつもでしたら、十二分な余裕を持って、陛下がお逃げになっていらっしゃるようにお見受けいたしますが」
「いつもならな。だが、今回は勝手が違うらしい。あいつらに強力な参謀がついた。……ラバルドだ」
 エンヌは一瞬だけ息を飲んだが、すぐに冷静に指摘した。
「……それは脅されてなのでは?」
 どうやら、エンヌも三爺の性格はよく知っているようである。すぐさまラバルドと三爺の関係に「脅迫」という糸を見出したあたり、さすがと言うべきか、それとも三爺らに落ち度があると言うべきか、イークは判断に困りつつ苦笑する。
「おそらくはそうだろう。ラバルドが進んでこんな茶番に付き合うとは考えにくい。だが、脅されたとは言え、この私を追い込んだ知恵は本物だ。私の叱責よりも、あちらの脅かしの方に屈したということは、私がその内容を掴めば逆転もあり得ると考えている」
「……と、言いますと」
「ラバルドの弱みを知らないか」
「………随分と下世話な逃走劇に成り果てたようですね」
 イークは眉をひそめてみせた。
「下世話と言うが、奴らのお節介の方が随分と下世話だぞ」

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