番外編 王城狂想曲



「それは誰でも……?」
「初めは自らに反抗的な者を中心に、最終的には誰彼構わず、というところだったようですが。おかげさまで、わたくしが王城に召された時には閑散たるもので、国の威信さえ売ったのかと思いました」
 ここにあるのは、とエンヌは目を細めて見つめる。
「その際に集めた品々の中でも、特に価値ある物を置いておく場所だったのでしょう。へそくりというぐらいですから、あの愚か者にも審美眼というものはあったようですね。……ですが、ここにあったのは無理矢理奪われた人の思い出でもあったのではありませんか? 陛下」
 エンヌの目が険を帯びてイークを見据える。
 当のイークはそのことも想定済みだったようで、飄々としたものだった。
「そうだ。名のある画家に描かせた肖像画や、結婚指輪らしいものもあった。どこまでも貪欲にかき集めたらしいな、あの馬鹿は」
「そうと知った時、お返しにならなかったのですか」
「返されて嬉しいものかね」
 イークは腕組みをした。
「私が即位した時、宝の持ち主たちの半数以上はリファムを脱した後だった。あれだけ見事に荒廃したんだ、国を出るのも仕方ない。残った者たちの豪胆さには敬服するが、中には残るために堕落した者もいた。……さて、彼らは宝を返してほしいと思うだろうか」
 エンヌから視線を外し、イークは続ける。
「彼らはいらぬと言った。失った宝や思い出は己が知る形のまま、美しいまま、記憶の中に留めておきたい。愚かな王に蹂躙された宝など、いらぬと。無論、返してほしいと言った者には返したが、それとて僅かな数だ。思い出を取り戻すという意味で手許に置いた者は、更に少ないと私は思っている。そう願うだけの余裕すら、あの馬鹿は奪ったのだよ」
「いずれ返却を求められた時には、どうするおつもりだったのです?」
「誰も皆、私が王として長く即位していられるとは思わなかったようだ。売って国費の足しにする、と言ったら、好きにしろと返されたさ。今頃、墓の下で悔しがっているだろうよ」
 エンヌは呆れたとでも言いたげに息を吐いた。しかし、そこに怒りや嫌悪は見られない。「この国王らしい」という諦めと、若干の好意も混じっていた。
「まあ、返せと言われたら、王城の中からどれでも好きな物を持って行けとしか言えんな。既に換金されて、国の一部になっているのだし。さすがに、お前の宝はどこそこの道になったから、代わりにその道を持って行けとは言えんだろう」
 冗談めかして言うと、シャイムはくすくすと笑った。緊張していた空気がようやく緩み、彼本来の調子を取り戻してきたようである。
 イークも微かに笑むと、部屋を眺めた。

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