番外編 王城狂想曲



 開けたままの扉から差し込む光とて僅かなもので、入る前に得た印象から、これほど明瞭に物が見えるとは思わなかった。
 辺りを見回しながらイークの後に続いていたエンヌは、ぽつりと呟いた。
「……魔法ですか?」
 イークは微かに振り返る。
「心得があるのか?」
「いいえ。ですが、法力とは違う感触がいたします」
「感触か。これだから勘のいいやつは困る」
 シャイムが急き込んで問うた。
「では本当に魔法なんですか?」
「らしいが、詳しいことは私にもわからん。元々ここは、先王のへそくりの隠し場所でな。……ご覧の通り」
 階段の終着点へと辿り着くと、そこは地上にあった倉庫よりもいくぶん狭い、それでも何十人という人が入ってもまだ余りある広さを持った空間が現れた。
 がらんとした中には無数の木箱や樽などが無造作に置いてあるだけで、片隅にはどう見てもごみとした思えない物まで積んである。ここも階段と同じく魔法の加護を受けているようで、曇り空の下を歩いているような、そんな薄ぼんやりとした明るさの下、それらはへそくりと言うにはあんまりな品々ばかりだった。
「……」
 黙り込んで荷物を見据えるエンヌを見て、イークは喉を鳴らして笑っていた。
「自分のへそくりの方がまだマシと思える光景だろう」
「陛下とわたくしの価値観が一緒であれば、その通りと言わざるを得ません」
「安心しろ。私にもここにあるのはただの荷物にしか見えん。これをへそくりと言わねばならなくなったら、その時はリファムが滅ぶ時だろうさ」
「……でも、陛下。これが先王のへそくりなんですか?」
 ちらりとシャイムを見た後、大きく息を吐きながらイークは室内を見渡した。
「元、と言った方が正しい。価値ある物は私がほとんど売り払った」
 エンヌの目がいくらか厳しくなる。
「先王の遺産となれば、貴族や資産家から徴収した物も含まれているのでは?」
「勘が良ければ歴史にも明るいか。お前を侍従長のままにしておくのは勿体ないな」
「お褒めに預かり光栄です」
「シャイムが目を白黒させているぞ?」
 エンヌとイークの間で、シャイムは一生懸命理解しようと努めたが、知らないものを理解するのは難しい。イークがほら、と促すと、エンヌはシャイムに向かって説明する。
「先王が愚王であったことぐらいは、聞いたことがあるでしょう。先の国王は国を自らの財布程度にしか考えていなかったのです。そうして国を食い潰し、斃れかけると、富ある者から人も資産も徴収していきました」

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