番外編 王城狂想曲



 イークはクローゼットにもたれかかり、腕組みをした。それでも「まだ終わったわけではない」とバーンも呆れるほどに前向きに捉えていたのだが、アートたちにとっては大問題に映ったようである。ようやく、ほとんど初めてと言ってもいいほどイークが結婚を意識したのにも関わらず、実りを上げるどころか発展の兆しさえ見せずに終わったことが、アートたちの焦りに拍車をかけたようだった。
 それからというもの、やれ見合いをしろ、せめて見合いの申し込みの書簡だけでも読めと迫る彼らとの逃走劇は、仕事に支障を来さない程度に繰り返され、そのほとんどがイークの勝利に終わっていた。
 全て、と言えないのは、その様子に呆れたラバルドが間に入り、止めさせた時には、どちらに軍配が上がることなく終わることもあるからである。だのに、今日に限ってそれはなく、三人の老人による追い込み漁は技に磨きがかかっていた。
 イークは大きく嘆息した。まさか、いきなり縁談の話を持ってくるとは思いもよらない。いくらイークでも、進んでしまった話を無視することは不可能だ。相手の体裁もあるというのに、これではほとんど暴挙に近い。そんな荒業に出られるほどの気力があるのなら、もっと仕事をさせてもいいほどだ。
 そこまで考えて、イークは顎に手を当てた。
「……ラバルドか」
 このところ仕事は落ち着いており、毎日順調に片付けている。イークがこうして自由に逃げられるだけあって、ラバルドも時間が空いているはずだ。そんな時、大抵、ラバルドが間に入るのである。
 それが、今日に限って声すら聞かない。
 疑っていた裏が見えてくると、イークの行動は素早かった。
 外からも廊下からも追手の声が聞こえなくなると、扉にぴったりと体を寄せながら、イークは静かにドアノブを回した。薄く開けた間隙から外の様子を窺うが、怪しい姿は見られない。いつも通りに静かな城内である。
 出来る限り物音を立てぬように部屋を出て、大股で廊下を歩く。
──ラバルド本人を見つけ出す必要がある。
 多分に、あの男ならば三人に巻き込まれたくちだろう。自ら意気揚々と、このような企みに参加するような性格ではない。となると、無理矢理に、あるいは何かしらの脅迫めいたものを受けて、否応なく知恵を提供していると判断出来る。
「……」
 イークは思わず俯き、溜息をついた。もっと有意義な頭脳の使い方があるだろうに、どうしてああも縁談に張り切りたがるのか、イークにはまったくもって理解出来ない心境である。
 だが、うんざりしたところで、ラバルドがその行動をやめる要因にはなり得ない。イークの不興を買っても尚勝るらしい、脅迫の中身を掴んで三爺より先手を打つ必要があった。

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