番外編 王城狂想曲



 既に引退した彼らを強引に呼び戻し、実権は与えずに王の相談役として位に据え、唯一バルカートのみはまだ若いからと書簡管理の長へ押し込んだ。若いとは言っても既にいい歳ではあるのだが。
 ともあれ、三人の働きは目覚ましいものだった。実権を持たないにしろ、彼らの発言と存在には力があり、そこに実力が伴っているのだから申し分はない。目に見える膿も見えない膿も、根絶までには至らないにしても、悪化する前に抑え込むことが出来ている。
 ベリオル亡き後、彼らは後任のラバルドの先生役も務めながら働いていた。ベリオルほどの連携が取れるにはまだ時間がかかりそうだが、どうにか上手くやっているようである。だが、そんな彼らの欠点を、残念なことにイークは気付くのが遅すぎた。
──いちいち、口うるさい。
 職務に関して口うるさいことは悪いことではない。むしろ何でも頷いて看過されることの方が、よっぽどタチが悪い。
 アートらの欠点、というよりほとんどイーク個人の愚痴ではあるが、彼らはイークの私生活にも口を出し過ぎた。髪を切る時に大騒ぎしたのも彼らであり、こうして逃げる羽目になっている結婚問題も彼らが騒ぎにしているようなものである。
 心配しているのだろうということは、あからさまに過ぎるほどわかるが、それが少々鬱陶しい。かと言ってそれを口に出せば、相談役の位を逆手にとって小言の攻撃が始まる。それがあながち間違った批難でもないのだから、イークにしてみれば返す言葉もない。生きている年齢でいえばイークの方が充分に上だが、見識ではアートらの方が遥かに上だった。
 ちなみに政治的権力の上ではラバルドとアートたちは同位ではあるが、発言力では実権を持たないアートらよりも、ラバルドの方が上である。だから、「それはやめろ」とラバルドが言えば、アートたちも従わざるを得ない。しかし、ラバルドよりも遥かに多くの実績が積み重ねられているアートらの方が周囲に一目置かれているため、ラバルドもそう強くは出られないのが現実だった。
 だから、ラバルドにアートたちの手綱役を任せようにも難しい話なのである。
──それが、このざまか。
 イークは声が遠ざかったのを見計らって、クローゼットの扉を開け、暗い部屋に出た。使われていない部屋は埃っぽく、閉じたカーテンの隙間から差し込む光を微かに反射して、舞い上がった埃が光の柱を作る。暗い部屋の中では物寂しい光景だった。
 ここしばらく、アートたちがイークの結婚を殊更に主張するのには、いっとき、この部屋を使っていた人間の所為もあった。
 久しぶりに──本当に何十年ぶりかに、イーク個人としての欲を抱いたのだが。
 それは果たされることなく、イークの手をすり抜けていった。

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