番外編 風来る



「おかげでお茶菓子も出ねえときたもんだ。ま、それくらいが気楽でいいよ。じゃ」
 バーンは手を挙げて挨拶すると、すたすたと部屋を出た。ぱたん、と扉を閉じた先ではラバルドが控えており、扉を守護する衛兵の姿どころか、廊下には人気が一切感じられない。イークが徹底して人払いしているのを、この青年が忠実に行っているのだと常々思い知らされる瞬間だった。
「裏門までご案内いたします」
 ラバルドはバーンが何をしにここへ来ているのかを知っている。だが、話の内容までは今になっても知らされてはいないようだった。
 ただ、バーンを迎え、帰りは裏門まで送る。その全てにおいて、バーンが余計な好奇心を持ち出して王城を詮索しないよう警戒しているようでもあるが、人目につかないようにというイークの意図もそこには介在していた。それは、バーンが持ち込む情報の性質ゆえの警戒であった。
 だから、ラバルドもバーンへは余計な詮索はしない。イークにはしているのかもしれないが、この男のことである。踏み込むこんで聞くことは、まだ出来ないでいるのだろう。
 バーンはそう思っていた。だが、今日は少々勝手が違った。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
 珍しくラバルドの方から声をかけてくる。その声は緊張していた。
「珍しい。なに?」
「陛下とはいつも、何を話しておいでなのですか」
 バーンはあまりにも直球な質問に、少々面食らった。
「……本当に正直な人だなあ、あんた。少し言葉を選んだ方が出世にはいいんじゃないの?」
「これ以上出世したいのであれば、国王になるほか道はありません。しかし、僕にその器はないので、陛下の傍付きとしてお聞きしているのです」
「同じように聞いてみりゃいいじゃんか」
「適当にはぐらかされて終わりです」
 既に実践済みらしかった。見た目にそぐわない行動力がこの男にはある。それがイークには面白いのかもしれない。
 バーンは歩きつつ、中空に視線を投げた。
「まー……はぐらかすだろうな。あまりお綺麗な話ではないし」
「……話の清濁で、僕に話すか否かを決められるのですか」
 しゅんとするラバルドの背中が一気に小さくなり、バーンはまずいことを言ったと慌てる。
「え、いや、ね? そういうわけじゃないと思うけど……」
「僕はまだ、陛下の信頼を得るに足らないと思われているのでしょうね。……ベリオル様のようになれると思うほど、不遜に出来ているつもりはありませんでしたが、それでももう少しは……」

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