番外編 風来る



「……どうもあいつら自覚がなくってなあ。何でまだ探されてるのかって所を、未だに説明しなきゃなんないんだよ。参るね全く」
「あいつららしい。それを覚悟で面倒を見ると決めたのだろう」
「してたけど、まあ追いかける方の執念深さまでは計算外。まーた引っ越さねえと」
「グラミリオンか?」
「主にそこ。あとはエルダンテだとか、農民商人ごっちゃまぜで来るもんだから、まあやりにくいったらねえよ。そういやリファムの貴族もいたなあ。それは前に言ったっけ?」
「聞いた。前とは違う奴か」
「同じ系列のお仲間みたいだけどな。無駄に力があるから厄介だよ。……だから、引っ越したらまた来るけど、たまには顔出せよ。オレから近況聞くだけじゃなくてさ。王様なら、あの側近の目を盗んで抜け出すなんて簡単だろ」
 イークは微かに笑った。
「出来るが、それをしたところで私はやはり、何も変われぬ自分を知るだけだろう。今はな」
 引き出しの中から皮袋を取り出し、机の上に置く。
「だから今は聞くだけでいい。あれが健やかに過ごしているのなら、私はそれだけでいい」
 激しい気質の持ち主が随分と殊勝なことを、とバーンは溜息混じりに聞いたが、何となしに思い立って聞いてみた。
「ライのこともそれでいいって?」
「あの甲斐性なしのことなど知らん」
 乱暴に引き出しを戻し、皮袋をバーンに放って寄越す。
 にやにやと笑いながら受け取ったバーンは、袋の中身を確認しながら話を続けた。
「結構、かいがいしくやってるぜ。アスの方はそれをどう見てんだか疑問だけどな、やっぱいっぺん見てみろって。面白いから」
 無言で応えるイークには構わず、中身を確認し終えたバーンは袋の口を閉じる。
「そういや、秋頃にエルダンテで復興を祝う祭をやるんだけど、そこに行こうって話してんだよ。王様も来れば? 公式になら来れるだろ。復興を祝うとは言ってるけど、まあ簡単な新王のお披露目だろうし」
「追われている身で暢気なことだな」
「だからこそだろ。まさか追いかけてる方の足元に出てくるなんて思わねえし、ライとなら結構町に行ってて、これで案外ばれないんだよな」
 まあ、と続けてバーンは苦笑する。
「アスの方はまだちょっと難しいけどな。偽物が出る騒ぎもあるし、本物と知られるのも厄介だが、偽物と思われるのはもっと厄介だ。移動する以外では大きな町にはほとんど行かせてない。一度、それで捕まる寸前になったこともあるしな」
 イークはバーンの向かいに戻り、小さく笑った。

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