番外編 風来る



 そう言うと、イークは息を吐きながら立ち上がり、バーンに話を振った。
「お前、あとどれくらい調べられる」
「調べろと言われれば何でも」
 胸を張って言うが、次の瞬間、バーンは顔に苦笑いを浮かべた。
「でも、さすがに海の向こうは厳しいな。こっちなら簡単な情報収集である程度の様相は掴めるけど、海の向こうじゃ間諜まがいのことまでしねえと」
「今でも間諜のような働きだと私は思うがね」
「情報の分析力が良いって言ってくれ」
「否定はしないな」
「まー間違っちゃいないけどな」
 国王の足元を通り越して、敵となり得る国の王にまで、王城の内情を推し量れるほどの情報を手に入れたのである。
 これが大陸であるなら、話は違う。噂程度の情報でも、集めれば集めただけの線と点が浮かび上がる。それらを集積し、現実と照らし合わせてどのように解釈するかを考え、その結論と推移を提供するのが大陸でのやり方だ。
 しかし、ネドファリアは海の向こうとあって、密に噂を仕入れることが出来ない。商船に乗る水夫たちから話を聞くことを主とする必要があったが、既に何度も又聞きした噂であることが多く、その本質を変えてしまっている噂が多かった。玉石混合の情報の中で、本物を見つけるのは至難の業である。それなのに、手に入れた情報はあっさりと線と点を提示するのだが、矛盾を探そうにも、照らし合わすものがバーンの手許にはない。
 それを今、イークと話すことでどうにか情報の精錬をこなしたわけだが、それにしても、ここまで簡単に情報が手に入ることがバーンには気味が悪く見えて仕方なかった。
「正直、ここまでネドファリアの情報が筒抜けになってるとは思わなかったもんでね。王様の言った通り、あそこは厳格な王で有名だ。オレとしちゃ、簡単な動向程度を探れれば良かったんだけど、ここで話してて思いがけず情報はきっちりまとまりやがった。オレにはそれが少し気味悪く見えてね」
「盗賊時代の勘が囁くか」
 イークは執務机の向こう側に回る。
 その軽口に、バーンは乗ることはしなかった。
「危ないもんへの勘は結構当たるんだ。少し気を付けといた方が無難だよ。……だから」
 後半の方となると、真面目な顔を緩ませて笑う。
「あんまり危ない橋は渡りたくないってのが本音。手のかかる二人も抱えてることだし」
 机の引き出しに手をかけていたイークは一瞬だけ動きを止め、その様子をバーンに気付かれないようにして、引き出しを引いた。
「……二人は元気そうだな」
 ああ、とバーンは呆れたような声を出す。

- 820/862 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]



0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -