番外編 風来る



 突然、がたがたと震える窓が会話を遮った。二人が窓の方を見やると、外には暗雲が立ち込め、枝からもぎとられた葉が強風に舞っている。暗雲の彼方に見える薄明るい光が、妙な不安をかきたてた。
 特にその風景への感想を述べるでもなく、イークは窓から視線を外す。
「あるいは国王自らが指揮してはいたが、後になってその権限の多くを失ったか。……謀反というにはまだ状況証拠が足らんがな。おまけにそれほど不穏な噂は流れていないのだろう」
 イークを論破してやろうと意気込んでいたバーンは、あっさりと折られた持論を前に不服な顔を隠そうともしなかった。
 膝の上で頬杖をつき、「全くもってその通りですよ」と仕入れてきた情報を披露する。
「国王には子供が二人いてね。少し前にその内の一人が亡くなったんだが、ほとんど間を置かずに国王の妾の子供が見つかったとかでさ。商人の話じゃこれで国は安泰だとよ」
「妾の子供が見つかって安泰だと?」
「それがどーも、あの国の王位継承に絡んでるっぽいんだが、よくわからなくってなあ。調べてみたんだけど、極秘中の極秘。歴代の国王しか知らねえんだと。ただまあ、王位継承の候補者は二人以上必要ってのは誰もが知るところだけどな。それ以上は本当に誰に聞いても」
 頬杖を解いたバーンは頭を振りながら言う。
「さすが黒の大陸だわ。今回ばかりは、こっちに流れてる情報以上のことは調べようがなかったね」
「……それかもしれんな」
「は?」
「王位継承に関しての不安は解消された。その子供二人は、おそらくは既に成人の儀を終えているのではないのか? もしそうなら、国王としての力を大いに発揮出来る今こそ、侵攻を進めるべきと考えたのかもしれん」
 まだ国に余力があるうちに、という焦りも垣間見えた。
 更に、子は既に父親としての己の手から、一人で立とうとしている。父でもあった国王はその責任を果たし、今度は国王としての責任を果たそうとしているのだろうか。
 イークは自ら辿り着いた推論に大きな溜息をついた。
「だとしたら厄介だ。あの国王自らが采配するとなると一筋縄ではいかんぞ」
「でも、その権限が失われてるっていう説は?」
「その可能性を見たとしても、国が機能しているのは国王に次ぐ何者かが指揮を執っているからだ。その人数も様相も知れん。だが、馬鹿が何人いたところで敵わないほどの切れ者がその中には確実にいる」
「……王様はさっき、子供が成人してるかもって言ったよな? そこ?」
 イークはにやりと笑う。
「さて、どうだか」

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