番外編 風来る



「……貴族どもが自身の財産を守り始めたか、あるいは、こちらに財産を預けてもいい状況が出来ようとしているのか。ネドファリアの国王は厳格な男という話だが、無様に奔走する貴族を粛清することも出来ないのかね」
「出来ない状況なのかもしれねえ。水夫に聞いたら、自主的に航路を変える船が出始めたっていうしな」
「戦場への道を拓けということか?」
「どうだかね。公式な要請は一切なくて、自主避難みたいなもんだとさ。まあ、何かやらかそうとしてるのは間違いないようだが、他国からの商船にはそういった話が流れないんだと」
「ネドファリアの民は?」
「知っちゃいるが公に口にはしないってとこらしいぜ。でもまあ大事な商売相手だから、気を付けろよって忠告だけはされる。話聞いてて、やな違和感を覚えたね、オレは。どこだかの国を思い出すよなあ?」
 バーンは意味ありげに苦笑し、テーブルの上に広げた紙束から数枚抜出してイークに渡した。そこにはここ最近、荷揚げされた荷物の数の推移が記されており、ざっと目を通しただけでも少しずつ増加しているのがわかる。
「よく手に入れたな」
「水夫に昔馴染みがいるもんでね。そのツテで」
「密かに持ち込まれた荷物に台帳をつけるのか」
「後で難癖つけて補償金寄越せっていうケチな奴もいるから、自衛のためにな。そういう荷物を運ぶことになったら商船が自分で台帳をつけて、荷揚げする港の組合でまとめるらしい。海の男ってのも自由じゃねえわ」
 肩をすくめて言うバーンの様子が面白く、イークは「そうか」と笑って紙をめくる。三枚目の紙には航路が描かれており、従来の航路は青、変更後の航路は赤い線で記されていた。また、グラミリオンへの航路と多民族国家への航路はそれぞれ実線と破線で描き分けられている。
 その細かな配慮のおかげで、イークは一瞬見ただけで変更後の様相に眉をひそめざるを得なかった。
「グラミリオンに航路が集中しているな。元々、密に貿易をする間柄ではなかったはずだが」
 そこまで言い、イークは喉を鳴らして笑った。
「まずはグラミリオンから掌中に入れようというわけか。わかりやすいが、自信があるのかただの馬鹿か」
「……王様はあんまり馬鹿とも思ってなさそうだな」
 イークは紙束をテーブルの上に戻しながら答える。

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