番外編 風来る



 そこまで言ってから息を吐き、バーンはソファの背もたれに腕を乗せた。
「エルダンテは群島諸国にとってほとんど唯一の大陸の玄関口だ。さすがの先王様も、それが他の国にはない自分だけの強みだって知ってたんだろ。そこで群島諸国との繋がりを密にして、大きな後ろ盾にすれば、事実上リミオスが握っていた実権を取り戻すことが出来ると思ったんだろうな、というのがオレの推測」
 イークは苦笑した。
「お前は間者まがいのことをするより、国王に向いているようだ」
「あー無理無理。王様見てると絶対向いてねえなって思うから」
「まあいい。その気になったら言え。祝いぐらいは贈ってやろう」
 やめてくれよ、とバーンは苦笑し、背もたれに乗せていた腕を下ろす。
 その様子を見て小さく笑った後、イークは表情を改めた。
「話を戻すが……だが、先王はそうはなれなかった。望みを遂げる前に死んだ」
「その時にはもう母親は王城にいなかったみたいだな。というか、子供が出来たと知ってからは王城を離れて、先王が与えた屋敷で子供を育てていたらしい。自発的なもんかどうかは知らねえけど、完全に手許から離さなかったのは跡取りが出来なかった時のための保険だろ」
 イークは足を組み、その上で手を組んで溜息を落とした。
「皮肉にもそれが功を奏したというわけか。確か王妃の子は亡くなっていたな」
「それもたった一人の子供ときたもんだ。そうしたら、自然と王位は例の子供に移る」
「……エルダンテは血の繋がりを重んじるからな。それを知った公王が新王を立てるにあたって、こちらまで出しゃばってきたというわけか。エルダンテを足掛かりにでもする気か? あいつらは」
「それは何とも言えねえな。密かに群島諸国の人間が入り込んでるっていう噂もあれば、ネドファリアの人間が入り込んでるっていう噂もあるし。どちらにせよ海の向こうの御仁は大陸が好きで好きで堪らないみたいだぜ」
 これには答えず、イークは問う。
「ネドファリアは来そうか」
 バーンは深く息を吐き、腕を組んだ。顔に浮かんだ表情は険しい。
「そっちはどうも冗談じゃ済まされねえ話になってきた。グラミリオンにも小さな港があるのは知ってるよな? あと、隣の多民族国家」
「エルダンテほどの規模ではないが、商船が付くには充分なものだな。どちらもネドファリアと交易がある」
「そこで荷揚げされる品物が最近増えている。それも秘密裏に持ち込まれて、中身はどれも金目のものだ」

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