番外編 風来る



「ああいう場じゃ素性その他はさて置いて、とにかく人手は喜ばれるからなあ」
「エルダンテとも通ずるようなら容赦はせんぞ」
「王様を裏切ったらアスに怒られる。ザルマも基本、あいつの味方だし、んなことしたらオレの居場所がなくなるよ。オレ、平和主義者ですから」
 バーンの行動力にやや呆れつつ、イークは話を促す。
「それで? 素性とは」
「先王の隠し子」
 イークは一瞬、目を見張り、次いで感動のない声で呟く。
「……これはまた正道を外さずに来たな」
「オレももうちょい期待したんだけどな。隠したくなるのも正論っちゃ正論だ。ただ、それが随分なお子様で、まだ十三」
「晩年に頑張ったくちか。本物か?」
「みたいだな。先王ゆかりの物を持ってるとか何とか、怪しいもんだが信憑性は高い」
 そこまで聞いて、イークはにやりと笑った。
「十三で新王とは若すぎる。誰が後ろ盾だ」
「そう言うだろうと思ってちゃんと調べて来ましたよ。そのお子様の母親ってのが、群島諸国の公王の遠縁らしくってな」
「公王だと?」
 イークの反応が途端に厳しくなる。
 リファムやエルダンテのある大陸から南東へ海を渡った所に、ハーベイ群島諸国と呼ばれる、島々からなる国がある。そこは群島諸国全体を統括する国王の他に、それぞれの島を治める、ハールと呼ばれる公王がおり、その権限は国王に次いで強いものだった。
「先王はそれを知っていたのか」
「さあねえ。リミオスが実権を握ってた時の情報統制は厳しかったから、なんとも。その時はエルダンテに関わろうって気もなかったし。でも、ま、今聞く話の限りじゃ知ってて手を出したみたいだけどな」
「公王の遠縁がなぜ、エルダンテ国王と知り合える」
 バーンは肩をすくめてみせた。
「母親の方も自分がそうだとは知らなかったみたいだぜ。あっちもあっちでやるこた一緒ってことだろ。歌い手だかなんだかをやってたみたいでね、出稼ぎよろしくこっちに来た時に、先王のご機嫌取りのために召し上げられたというわけだ」
「……そうして後に素性を調べて、気づいたというわけか」
「群島諸国の軍は弱いって話だけどな、貿易能力にかけてはエルダンテにひけをとらねえ。群島から成る国だから必然的に交通手段の多くは船になるし、航海の技術も高い。その特性を自分で充分理解してるから、自発的に新しい航路や大陸を探す行動力もある。ま、先王様の狙いはそこだろ。公王から繋がりを得て、群島諸国との関係をこれまで以上のものにする」

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