番外編 風来る
「叶ったものもあれば、叶わなかったものもあった。願いとは往々にしてそういうものだろう。全てが叶ってしまえば、願う必要がなくなる」
「オレにはまだ、あんたが無欲の王様になれるとは思えねえけどな」
「私も思わん。王としての欲は無尽蔵でなければな」
笑いながら言い、イークは椅子から立ち、バーンの正面に腰かける。
「それで、周辺の状況はどうだ」
「色々あるぜー。どっから聞く?」
バーンはにやりとしてみせる。
アスらと共に城を出てからというもの、バーンは時々こうしてイークに周辺の状況を調べて伝えては報酬を貰い、それを生活費の足しにしていた。暮らしが貧しいというわけではないが、そうして動き回るのが性分にあっているのだろう。盗賊団を解散して後、暇を持て余したバーンは性分と合う仕事を見つけ、生き生きとした顔で王城に顔を出す。それが、イークにとっても気晴らしになり、また、重要な情報収集にもなっていた。
元盗賊団というだけあって、バーンの情報収集能力は馬鹿に出来なかった。
茶化して笑うバーンに、イークは答える。
「では、ご近所から行こうか」
「じゃあ、エルダンテからな。リファムほどじゃねえが、復興は順調だな。新しく王城を建設し始めてるのは?」
「知っている」
「港が通常通りに運行し始めたことも?」
「無論だ」
「それじゃあ、新王を立てようっていう話があることは?」
「そこを聞きたいな」
「知ってる以外の答えが聞けて、仕事をした甲斐があるってもんだ」
バーンは腰に巻きつけていたらしい大きな皮袋を外し、応接用のテーブルの上で結んでいた紐を解く。すると、中からは何十枚もの紙束が顔を見せ、バーンはその何枚かを抜き取って目を走らせた。どうやら彼なりに整理された走り書きの束のようだが、傍目には雑然とした印象しか与えない。
紙から顔を上げたバーンはイークへ問うた。
「新王の噂ぐらいは聞いたことあるだろ」
「王都を再建するとなれば、必然的にその話も出る。今まで公にならなかったのが不思議なくらいだ」
「エルダンテの市井の反応もそんな感じだな。ま、王城の再建も順調だし、ようやく考える余裕が出来たってのも一つの理由だろうが、もう一つが立てようっていう新王の素性の所為なのが王城勤めの意見らしい」
「……エルダンテの王城にまで入り込んだのか」
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