第二十八章 帰還
「……アルフィニオスは未来を見ることが出来たはずなのに、神書のオリジナルにはそれが書かれてなかった。結末なんて、元々なかったんだよ……!」
ふ、と、拮抗していたカラゼクの剣から力が抜け、ライの力に押されて二、三歩後退する。視界の端ではリミオスも立ち上がって驚きを露にしていた。
二人の様子に構わず、ライは声を張り上げる。
「アルフィニオスにはきっと、あんたたちの未来も見えていた。本当に憎いならそれを書いて、戒めにすることも出来たはずだ。なのに書かなかったのは、あんたたちにも気付いて欲しかったからだよ。自分の可能性に!」
カラゼクの顔から疑問や怒りが消える。
表情を失った相手へ本当にこの言葉が届くのか怪しいものだが、それでも、ライは口を閉ざさなかった。
オッドも、そして過去の『神子』たちもきっと、白紙のオリジナルに可能性を見たのだろう。
そしてそれは本来ならば、リミオスらにも届けられるはずのものだったのだ。それが沢山の思いと意志が絡まりあって見せることも叶わず、彼らはこの道を選ぶに至った。
──だが、まだ間に合う。
まだ、彼らにこの言葉が届くのならば、彼らが死ぬのは今ではない。
「その呪いも、本来なら簡単に解けるものじゃないのか?アルフィニオスは簡単に解けるように、何かをあんたたちに残しているはずだ。それを……」
言いかけたライの言を遮るように、轟音と共に再び地震が彼らを襲う。しかも城の上層にある玉座の間は地上で感じるよりも大きな揺れで足元をすくい、立つことも叶わなかった。
数秒揺れた後、轟音の残響が聞こえる中で地震はおさまり、様子を窺いつつ皆が立ち上がった──その時だった。
「……見つけた」
一瞬だけ訪れた静寂に、この場にいる誰のものでもない静かな声が投げ込まれる。
扉の方から聞こえる声に驚いて皆が振り向くと、そこには虚ろな目をしたロアーナが立っていた。
「ロアーナ!」
ジャックが駆け寄って肩を掴もうとするも、彼女のものとは思えない凄まじい力で払われ、廊下の壁に叩きつけられる。
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