第二十八章 帰還
何か、と探した瞬間、視界の端に黒いものが入り込んだ。
──あれだ。
それが何なのか自分に言い聞かせる間もなく、アスの体の向こうにあったそれに飛びついて、振り返った先でカラゼクの一撃を受ける。
ぎん、と金属が交わる音が響き渡った。
交差する剣の向こうで、目を覆う布を取り払ったカラゼクの顔に驚愕が映りこむ。
「どうしてお前がそれを持てる……!」
力任せにカラゼクの剣を押し返し、ライは立ち上がった。
ライが手にしたそれは、『時の欠片』だった。
「これが俺の特技なんだよ」
跳ね回る心臓を押さえ込み、剣を構え直す。
「その目は何だ」
カラゼクがずっと隠してきたものを初めて目の当たりにし、ライは驚愕を隠し切れなかった。
オッドが言っていたアルフィニオスの呪いとは、あの赤い刻印のことだろうか。確かに呪いと言うに相応しい様相だが、そこから流れ出る血が涙に見えて仕方ない。
ライと対峙して剣を構えるカラゼクが忌々しそうに吐き捨てる。
「貴様が知る資格はない!」
爆発した感情に任せて地を蹴り、ライに向かう。
先刻よりも重い一撃を受け、ライは声を張り上げる。
「こんなことをする為に俺たちと一緒に旅をしたのか!」
「それが僕の役目だ!」
「……死ぬこともか……!」
カラゼクの剣を跳ね返し、今度は攻撃の一手に出る。
脇から繰り出した剣をカラゼクは受け、力が向かおうとする方向へライの剣を流す。体勢が崩れたところで再び剣を振り被るが、瞬時にして体勢を立て直したライは体を沈め、カラゼクの足を払った。
思わぬ一手に床へ倒れこんだところへライが剣を叩き込むが、それもカラゼクはどうにか受けてみせた。
「死ぬこともお前たちの役目なのか!その為に戦争を起こして、沢山の人を殺すことも!」
「お前に世界の何がわかる!僕たちのことも、アルフィニオスのことも、お前たちは何も知らない!」
「だからって世界を壊していいはずがない!お前たちが死んでいい理由にはならないはずだ!」
腹の底から声を出して剣に力を込めるも、カラゼクの足がライの腹を蹴り飛ばし、一瞬にして引き離される。
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