第二十八章 帰還
不意に笑いたいような泣きたいような気分になり、それを打ち消すかの如く大斧を取り出して構える。
「……まあな。あいつについて行けるのは、おれぐらいなもんだからな」
ようやく飛び出した軽口に皆もつられて笑い、バーンがジャックの肩を叩いた。
「さてと。こっちは準備万端だぜ」
明るい口調に気持ちが底上げされるのを感じながら、ライは剣を構えなおし、駆け出す為の足に力を入れる。
──待ってろよ。
アスに、そしてリミオスやカラゼクにも向けた言葉を心の中で呟き、ライは口を開いた。
「行こう」
+++++
罠と疑った自分たちが恥ずかしくなるほど、王城は静かだった。ライに続いて城内を駆けていく一行だが、その時々で警戒しなければならないはずの兵士もおらず、途中から警戒するのも馬鹿らしくなって、今はひたすらに玉座の間を目指している。
アスがどこにいる、と考えるよりも早く、ライの頭には玉座の間の光景が浮かんだ。直感というよりも、リミオスならそこにいるだろうという考えからだった。
「本当に、誰もいねえな」
静かな廊下を駆け抜けながらバーンが言う。その声も静寂の中でひたすらに反響するのみで、飛び出してくるような兵士もいなかった。
最も、同じ城内で遠くに聞こえるリファム軍の声を聞いても何の反応もないのだから、当然といえば当然なのだが、武器を持っている手前、どこか拍子抜けした感が残る。
「儲けものと思え」
同じく拍子抜けしていたイークが声を張り上げる。静かすぎる王城というのも気味が悪いものだ。兵士だけではなく王城に勤める全ての者が家に戻り、禁止令の下で王城の変異を見守っているのかと思うと、不気味を通り越して呆れが沸き起こるのだから不思議である。
王の権威は既にエルダンテにはなく、彼らが守るべき国もまた、王が死んだ時になくなったのだと気付かされる瞬間だった。
「こうなると空しいものだな」
「特にうちの王様は馬鹿だったからな」
ジャックが軽口で応える。笑おうとしたイークは苦笑するに留めた。
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