第二十八章 帰還



 前方に視線を戻して言うと、ジャックが苦笑する。同じように苦笑をして返し、ライは路地を抜けてすぐにある茂みへと入り込んだ。

 背を低くして茂みの中を進み、王城の裏門が見えたところで足を止める。

「荷物の搬入用の門だ。あそこから入れる」

 子供の頃はアスと共に見た門だが、アスを救う為に見ることになるとは。あまりの皮肉に苦笑することも出来ない。

 様子を窺っていたイークが不審そうに眉をひそめる。

「門も開け放たれたままだというのに、衛兵がいない。いつもそうなのか」

「いや、いるはずだ。でも、敗走した兵士も街中では見なかったし、軍もいなかった。王城の人間も含めて、全ての民を家に閉じ込めてると思う」

「外出禁止令でもかけたってか。でも何で?」

 ライの言葉にバーンが疑問を投げかけるが、これにはライも答えることが出来ない。リミオスの元で学んだとは言え、彼の心理までは図りかねる。思えば、リミオスは本当の意味で心をさらけ出したことがただの一度もないのではないだろうか。

 口をつぐむライの横でイークが溜め息をついた。

「まあいい。そうなると王城にも兵士はいないと考えて良さそうだな」

「正門であんだけ派手に動いてるのに、何も動きがないし。こりゃ、王城の中はすっからかんかもなあ」

 裏門の様子を見るバーンやライたちの耳には、正門でのリファム軍の動きが音となって届いている。門を開ける音、兵士の雄たけび、馬の蹄の音──風に乗って聞こえるだけでかなりの騒音だとは思うが、それでもエルダンテ王城は沈黙を守ったままだった。

 進みやすいと思う反面、不気味だと警鐘が鳴るのを押さえられない。

「罠にせよ何にせよ、行くしかないだろう。行けるな?ライノット」

「かなり階段を上るから覚悟しとけよ」

 言いながら剣を抜き、いつでも飛び出せる状態にする。イークやバーンも用意する中、背負ったままの大斧を取り出そうともしないジャックへライが声をかけた。

「ロアーナがここにいたら、彼女はお前が守ってくれ。……俺たちよりも、お前の方がずっとロアーナのことを見てたんだからさ」

 ジャックが顔を上げると、そこでは三人が振り返って彼の言葉を待っていた。

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