第二十八章 帰還
誰もが幼い兄弟の別れに立ち会う暇もなく、声をかけることも出来ず、彼らは静かに戦場を去った。
せめて別れの儀式ぐらい執り行えればと思うものの、事態がそれを許さない。
ライの返答を聞いたイークが本当に疲れたような溜め息をつく。珍しいことだった。
「堪えるな、こういうのは。……全て片付き次第、彼らを母親の元に返してやれればいいんだが」
「それで充分だよ」
とん、とバーンが腕を叩いて励ますような仕草をしてみせる。
皆の間から穏やかな空気が生まれ、気持ちを切り替えるかのようにイークは大きく息を吐いた。
「カラゼクがアスラードを連れていったのは本当だな」
感情を排した言葉にジャックが表情を固くする。
「……本当だ」
「カラゼクはリミオスの兄さんなんだろう。それなら、やっぱりリミオスの元に」
ライが確かめるつもりで言葉を放った。
「だろうな。全く、頑固者はこれだから困る……」
顔をしかめて頭をかいていたイークだが、溜め息をつきつつヴィートスに顔を向けた。
「兵の様子は」
「騎馬隊など含め、半数は動けます。ですが、残りは怪我人の搬送などで一度帰そうと思っておりますが」
「それでいい。さて、玉座の奪還よりもスピードが要求されるぞ。リミオスがあんな荒業に出たということは、全て準備が整ったということだ。早くて明け方、遅くとも明朝にはアスラードに『器』を作らせるはずだ」
「じゃあ、その前にオレらでアスを助け出さねえとな」
バーンがイークの言を簡単にまとめる。イークは頷いた。
「小細工をしている暇もない。ヴィートスとロスジムは残りの兵士を率いてエルダンテ王城に正面から攻めろ。それを陽動にして、私とライノットらで秘密裏に王城へ侵入する」
「そう上手く行くものですかね」
「上手く行かせろ。行かなければ死ぬだけだ」
横暴な理論にヴィートスとロスジムは顔を見合わせて苦笑し、御意と呟く。豪気な王の前に返す言葉などありはしないとでもいうような笑い方だった。
イークは満足そうに二人を見、こちらに視線を集中させるライに向き直る。
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