第二十八章 帰還
「こんなのは悲しすぎる。あんたたちは誰かが死ななければならない、世界が嫌だったんだろう。それを知らしめるために、本当にあんたたちが犠牲になる必要があるのか!」
力で押しながら立ち上がる。その間も剣は耳障りな金属音を立てていた。
「誰かが死ななければならない世界で、どうしてあんたたちが死ななければならないんだ!その気持ちをオッドに話したのか!ちゃんと誰かに話したのか!?」
「話してわかる相手なら苦労しない……!」
声を荒げたカラゼクが剣を弾き返し、アスがよろめいたところで反撃に転じる。上段から素早く繰り出された一撃は重く、立ち上がったばかりのアスには受けるだけで精一杯だった。
しかも、珍しく感情を昂ぶらせたカラゼクの攻撃は歯止めを失ったようにアスへ牙を向ける。
「あいつは自身の望みの為に我々を利用し、裏切った!そんな相手に話す言葉がどこにある!」
「探そうともしない奴に言われたくない……!」
爆発する感情に任せてカラゼクの剣を撥ね退ける。
二、三歩離れて剣を構えなおしたカラゼクに向かい、アスは言い放った。
「勝手に絶望して、勝手に悲しんで、そんなのは自分たちの怠惰だ!あんたたちは勝手すぎる!」
「……世界を守る英雄にでもなるつもりかな」
二人の剣が届く域から離れ、静観していたリミオスが静かな声を発する。乱れた水面を整えるかのような静けさだったが、アスはそれに対して「違う」と言い切った。
「世界もアルフィニオスも関係ない。ただ、私が大事だと思った人が穏やかに暮らせる場所を奪われるのだけは我慢出来ない」
それはかつて自身も味わった思いだから。
リミオスらに向けた言葉は全て、ふとした折に自身へ投げかけていた言葉だった。
周囲に対して言葉を投げかけることもなく、ただ勝手に絶望していた。彼らを目にしていると、過去の自分を見ているようで嫌悪が込み上げてくる。
だが、アスにはそんな自分を振り返る切っ掛けを与えてくれた人々がいた。だから今の自分があるのだ。
──それは、リミオスやカラゼクには向けられないものなのだろうか?
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