第二十八章 帰還



 今にも噛み付きそうな勢いで、アスは詰問する。

「どこで『神子』の事実を知った!」

 静かだった玉座の間にアスの怒りが段々と広がっていった。

 それにも、二人は全く心を動かされることがないようである。オッドの記憶の中で見た光景と痛みが嘘のように思えてならない。

「アルフィニオス神書と過去の『神子』の傾向を見て、推測を立てた。この点でもユアロたちと過ごしたのは為になったね。……そうすると三つかな」

「僕たちは長い間、『神子』と共に『欠片』も集め、そしてようやくお前が生まれた。……ずっとこの時を待っていた」

 カラゼクの言葉に納得したわけではないが、アスは段々と気持ちが冷えていくのを覚える。

 アルフィニオスの呪いを受けて後、世界を呪った彼らが生きてきたのは彼らが持っていた信念の為ではなかったのだ。多くの愚行を目にして信念は歪められ、予言書も生まれた当初の目的とは違う用途に使われた。

 そして二人は気が遠くなるほど長い時を越え今日に至り、戦争を起こし、多くの人の命をも飲み込んでいった。

──それも全て。

「……ずっと、死ぬために?」

 リミオスとカラゼクは互いに視線を交わし、この時初めて表情らしい表情が見えた。

 長い間二人だけで遂行してきた目的を共有出来る共犯者を得た安堵か、それとも、ただ単に己の心の内をさらけ出した相手に対する情念か。

 リミオスは口角を上げて小さく笑った。

「どうあっても死ぬことの出来ない体は、この世界では邪魔なんだよ」

 そして兄さんも、とリミオスが振り仰いだ先で、カラゼクが目を覆っていた布を外す。

 その下に現れたものを見て、アスは息を飲んだ。

 固く閉ざされた両瞼を横断して、針で引っかいたような夥しい量の赤い刻印が刻まれている。刻印からは血が滲んでいるようで、アスが見ている間もぷつぷつと赤い玉が臨界点を越えて頬に滴り落ちていた。カラゼクの手にある布を見れば、目に触れていた部分が赤黒く染まっている。

「……お前の影響だろう。呪いが強まったようだ」

「それも……アルフィニオスの……」

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